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過失相殺率認定における新手法
   過失についての加重平均適用

-「事故発生への寄与率」と当該「結果発生への寄与率」の区別可能事例における峻別-

・・死亡等の重大結果発生交通事故で、
   結果に直結する過失内容が特定できる場合の
      過失相殺率認定基準の具体的適用・・

最終加筆訂正 2015/12/19・12/18

大阪弁護士会所属   弁護士 五右衛門(服部廣志)
転載元

一 過失相殺

交通事故等における損害賠償金額を算定するについて、不法行為制度の基本である損害の公平な分担という観点から、加害者及び被害者の事故発生への寄与率ともいうべき加害者、被害者双方の過失割合により、加害者が被害者に支払うべき損害賠償金額の算定が行われている。

二 過失相殺率認定基準

1 認定基準の内容

現在、裁判実務で用いられている過失相殺率の認定基準は、危険責任の原則、優者危険負担の原則等を総合して一般的な事故類型を想定して作成されており、これを作成している裁判所は「個々の事案に沿った柔軟な解決が望まれるのであり、過失相殺率基準の画一的な活用は避けるべきである」と記載している。

2 認定基準の特質と構成要素

イ 上記のような過失相殺率の認定基準は、主として事故当事者の走行、歩行態様、各当事者の道路交通法違反の内容と程度、その他の過失の内容等を総合して決するものとされている。

そして、このような過失相殺率認定基準の要素中に、「被害者の傷害の内容、程度」は含まれておらず、従ってまた、「被害者の傷害の内容、程度」と「各当事者の過失の内容との関係等」は取り込まれていない。

このような現在の過失相殺率の認定基準の構成要素を考えると、制作公表されている現在の過失相殺率の認定基準は、「事故発生への寄与率」という側面が大きいものとも言える。

ロ 個別の具体的な事故について、過失相殺率を認定するについては、上記東京地裁が述べるように、損害の公平な分担という観点から、「個々の事案に沿った柔軟な解決が望まれるのであり、過失相殺率基準の画一的な活用は避けるべきであり」特に、過失相殺率の構成要素として取り込まれていない「被害者の傷害の内容、程度と各当事者の過失の内容との因果関係等」(具体的な過失の発生した結果に対する因果関係力の強さなど)は、事案により可能であれば、十二分に吟味、検討して適切な過失相殺率の認定に努める必要がある。

なぜなら、交通事故が加害者、被害者双方の過失が競合して発生し、実際に生じた傷害等の事故の結果は、加害者、被害者らの過失が複合的に競合して生じるものであるにしても、具体的な発生結果と各過失の内容等を検討すると、各過失と結果発生との間に、因果関係力について、明白な差異が存在し、その差が把握不可能な場合もあれば、このような因果関係力の差を把握可能な場合もあるからである。

事故当事者の過失については、その内容を大別すると、「事故発生に関する寄与率的なもの」と「被害者に発生した具体的な傷害内容等の結果に関する寄与率的なもの」の二種類があり、制作されている過失相殺率の認定基準は、主として前者の「事故発生に関する寄与率的なもの」を主たる構成要素として作成されているものであることから、実際の、個別の交通事故における過失相殺率の認定については、過失相殺率の認定基準を基礎とし、事故事案の内容から、後者の「被害者に発生した具体的な傷害内容等の結果に関する寄与率的なもの」(各過失の結果に対する因果関係力など)を把握できる場合には、これを適切に斟酌、加味して実際に適用すべき過失相殺率を認定すべきであるからである。

三 具体的事例など

1 具体的な事例を想定してみる。

先行原動機付き自転車が、後方の安全不確認のまま走行車線から追い越し斜線に進路変更し、追い越し車線を走行中の4輪自動車の前方不注視、スピード違反により、4輪自動車と原付自転車が衝突し、原付自転車の運転者が傷害を負ったと想定してみる。

2 過失相殺率の認定基準をみてみる。

基本過失相殺率は

原付自転車  60   4輪自動車  40 である。

そして、後続4輪車が制限速度を15キロ以上超過していたとする。

これにより、過失相殺率を修正すると
 原付自転車 -10 であるから

原付自転車  50   4輪自動車  50となる。

3 2記載のような過失相殺率の具体的適用を考えてみる。

前記のような事故発生への寄与率という観点からみれば、50対50という過失相殺率の認定は妥当かもしれない。

例えば、原付自転車の運転者が、治癒可能な骨折ないし打撲等の傷害の場合には、上記過失相殺率をそのまま適用したとしても公平を失することはないかもしれない。

4 しかし、例えば、事故道路の制限速度が時速60キロメートルで、後続4輪自動車が時速80キロメートルの速度であり、原付自転車に気づいて急制動措置をとり、時速約65キロメートルの速度で原付自転車に激突して、自車フロントガラスに被害者頭部を激突させ、かつ、原付自転車の運転者を10メートル以上はね飛ばして路上に激突させて、車との激突及び路上への激突による頭部外傷、車との激突による胸部打撲等の傷害を負わせ、これらの傷害が原因となって被害者を死亡するに至らしめた場合を想定する。

(制限速度時速60キロを遵守していた場合の衝突速度が時速約30ないし35キロメートルと仮定、想定してみる)。 

上記に想定した死亡事故の場合、前記のような過失相殺率の認定基準どおりでいいのだろうか。原付自転車の運転者の死亡という結果について、 原付 50 対 4輪 50 という過失相殺率でいいのだろうか。

上記を検討するについて、次のような事実を前提とすることとする。

前提事実1

4輪自動車と歩行者ないし原付自転車との衝突において、4輪との衝突速度が、時速40キロを越える場合を高速域と、40キロ以下の場合を低速域と分類する。

前提事実2

高速域における人の死亡率は高速になればなるほど死亡率は高くなり、低速域における衝突においては、低速になればなるほど人の生存率は高くなる。

前提事実3

時速30ないし35キロメートルでの衝突は、普通自動車一台分の距離、約4ないし5メートル程度の距離を原付等を押して停車する速度である。

上記想定事故について、上記前提事実を踏まえて検討するとして、このような死亡事故について、過失相殺率を 50 対 50として損害賠償金額を算定することが妥当であろうか。

結論としても明らかに不当であるように思える。

なぜなら、仮に4輪運転者が制限速度を遵守しておれば、原付運転者は、悪くて骨折程度の傷害で終わった蓋然性が高いからである。原付運転者の死亡は、4輪運転者の時速80キロという制限速度を20キロも超過した高速で走行して本件事故を起こした結果ともいえるからである。

即ち、交通事故の発生、換言すれば、原付運転者の死亡ないし死亡に匹敵するような重度の傷害を除外する損害部分については、前記 50 対  50という過失相殺率を適用しても差し支えないとしても、それを越える死亡という結果については、4輪運転者の20キロメートル超過というスピード違反が決定的な原因となっているものであり、このスピード違反という過失が被害者の死亡という結果への直接的な因果関係力が強いからである。この死亡という結果のみを考えれば、4輪運転者の過失割合は 80以上と考えていいはずである。

従って、このような場合、過失相殺率の認定については、上記の点を加味して、加重平均して、修正する必要がある。

死亡以外の傷害と死亡という結果の、傷害比重割合を  2 対 8 とすると

死亡以外  2 × 0.5 = 1

死亡    8 × 0.8 = 6.4

合計    1+6.4= 7.4

5 結論として、過失相殺率は26/100となる。

四 結論

以上の参考例のように、死亡ないし死亡に匹敵するような重度の傷害結果と事故当事者の具体的な過失の内容との間に、直接的な因果関係力が肯定できるような死亡事故等の場合には、傷害内容の比重割合に応じて、過失相殺率を加重平均して認定すべきである。

過失相殺率の認定基準は裁判所に任せておいていいというものではない。被害者や被害者の遺族の悲しみを理解できる代理人弁護士も積極的に事故を分析し、過失相殺率の認定基準を吟味、検討してより妥当なものを追求すべきである。

注意・・上記設例の数値は検討材料として挙示したものであり、不正確な部分もあります。

五 従来の認定手法との異動

従来の過失相殺率認定の手法は「事故発生への寄与率」というようなものであり,上記新手法は「事故発生への寄与率」という過失相殺率と「当該結果発生への寄与率」とを,場合によっては峻別し,それらの過失相殺率について,適正な加重平均等をして,最終的な過失相殺率を導きだそうとするものであり,従来の週報より,より緻密に,当事者間の公平を諮ることができるものである。

六 従来の認定手法の根拠,理由

従来の手法の理由,根拠は,「事故が発生した場合,どのような結果が生じるかは自然現象であり,人の意思が介在する余地はなく,当事者の落ち度というようなものは関係しない」というものと推測される。

しかし,このような発想は,「結果に直結する過失の特定を否定」することにはならない。刑法における原因において自由な行為論を思い起こして欲しい。

例えば,頭部損傷事故で着用すべきヘルメットを装着しておらず,着用しておれば頭部損傷の程度を大きく減殺できたと考えられるような場合,その過失は結果に直結しており,かつ,それに被害者の自由な意思が介在している。この過失は,事故発生に結びつく過失というより,結果の大小に結びつく過失であり,「事故発生に関連する過失」と「結果の大小に関連する過失」を混在させて検討することは当事者間の公平を追求するには不適切である。

七 新手法の合理性など