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物損と修理費(仮定的修理費)など

ーー損害発生の事実と損害金額の算定などーー(例・バンパー凹み事案を仮定して)

最終加筆訂正 2015/12/14

大阪弁護士会所属   弁護士 五右衛門(服部廣志)
転載元

車両損傷における損害事実と損害事実の評価金額としての損害賠償請求金額について

一 損害金額としての修理金額ないし時価金額

1 車両損傷という事実が発生した場合の損害賠償請求金額は、通常、その車両損傷を修理するために必要な金額とされる場合が多い。

2 それは車両損傷という事実が発生した場合、車両の修理が物理的に可能な場合には、通常、修理がなされ、その修理金額が支払われて、修理代金の支払い、即ち修理代金額相当の支出という損害が発生、現実化するからである。

3 しかしながら、修理代金額が当該車両の時価価額より高額である場合には、修理金額より低額な車両時価価額で、修理したのと同様の車両を入手可能であること等を理由として、損害事実についての損害賠償請求金額は時価価額を限度とするとされている。

これは、損害回復するについての修理費用支出の相当性の限度金額としての上限を画するものである。

この場合は、現実の修理の有無にかかわらず、修理と同価値の行為として、同種中古車両の購入という行為が想定されている。

4 上記のとおり、車両損傷の場合の損害賠償請求金額は「修理代金額相当の金額(上限限度金額を損傷車両の損傷がなかったとした場合の時価価額)」とされるのが原則である。

5 そして、このように「修理代金額相当の金額(上限限度金額を損傷車両の損傷がなかったとした場合の時価価額)」が損害金額とされるのは、あくまで、これらの修理が「可能であること」を前提とし、「それらの行為が実行されること」を前提,想定としている。

なぜなら、そのような行為が実行されることにより、損害の回復がなされ、また、損害の回復のために金員の支出が現実になされ、損害の金銭的評価が現実化するからである。

二 損害金額としての仮定的修理金額

1 大阪地裁平成10年2月24日判決は,事故車両が現在修理されておらず,また今後も修理する可能性がなかったケースについて、被害車両が現実に損傷を受けている以上,事故による損害は既に発生しているとして,修理費相当額の支払を認めた。

2 しかし、上記大阪地裁の事案について、「事故車両が現在修理されておらず,また修理する可能性がなかった事案」について、

(1)「被害車両が現実に損傷を受けている以上,事故による損害は既に発生している(前段部分)として,

(2)修理費相当額の支払を認めたものである(後段部分)
という評価」は誤解を招き易いものである。

上記事案は、「車両損傷を受けた者が修理をしないまま、事故による損傷がなかった場合の想定下取り価額からその修理代金相当額を減額した金額で下取りをして貰って、新車を購入したという事案」である。

この事案の場合、被害者は仮定的修理費相当金額分だけ、下取り金額を減額されて、事故による損害発生の評価が現実化したものであり、この場合の現実化した損害は「下取り価額の減額分」であり、これが損害金額である。

仮定的修理費金額が損害額として現実化したものとして認定されたものではない。現実化した損害金額である「下取り価額の減額分」と仮定的修理費金額が同額であったに過ぎないものであり、現実化した損害の評価金額を間違って把握してはならない。
 
3 自動車販売会社が顧客から中古車両を下取りする場合、その現実の下取り価額は、①当該中古車の中古車市場における販売価額、②下取りにより新規に購入される車両の車種、販売価額、③当該新車の値引き金額、④当該中古車の有する損傷の内容程度、⑤中古市場において販売するために必要な修理費等多種多様な商取引上の諸要素により決定されているものであり、「当該下取り車両に損傷がなければ決定された下取り価額」というようなものは画一的に算出されるものではなく、また、「損傷のある車両については、当該損傷が車両の走行機能に直接影響を与えるものか否か,即ち中古車両として中古市場において販売されるについて必ず修理されることが前提とされるような損傷であるのか否か等の検討を経ずに,当然の如く,仮定的修理費相当額が減額されて下取り価額が決定される」というような画一的なものでもない。

従って、損傷のある車両については、仮定的修理費相当額が下取り価額から当然減額されるという経験則もないものであり、現実の下取り価額の交渉において、損傷が存在することにより下取り価額の減額金額は仮定的修理費額と同一であるとの経験則も存在しない。

以上から、前記大阪地裁の事案のような場合には、「現実に下取り価額が減額された額が現実に車両損傷が存在することによる損害額として発生、現実化したものとして認定されている」のであり、そり金額がたまたま仮定的修理費と同額であったとしても、「仮定的修理費が損害の評価額として認定されたものである」と理解することは、

ア 「損害発生の事実」と

ロ 「その損害が現実化したものとしての損害額の評価ないし評価方法」を

混同するものであり、不当である。

三 損害発生の事実とその損害が現実化したものとしての損害額の評価の峻別の必要性

1 車両損傷による損害発生の事実と当該損害が現実化したものとしての金銭的評価とは別のものであり、これを混同してはならず、峻別しなければならない。

イ 例えば、車両追突事故により後部バンパーの一部が凹んだとした場合

損害発生の事実は、当該バンパーの凹みの事実である。
一旦、発生したパンパーが凹むという損害発生の事実は(バンパー自身の復元力による凹み消失という現象が生じない限り)原則として、後日、消失することはない。

ロ イ記載の損害発生事実と、当該損害が現実化したものとしての損害についての金銭的評価は別である。

ハ 損害発生についての損害賠償請求を行う場合、民法722条、同417条により金銭的評価をして賠償金額を算定するのである。

2 そして、この金銭的評価する場合、損害発生の事実(上記の場合には、バンパー凹みの事実)から現実化する金銭的損失額を、社会経験則と常識を持って、より正確に、確実なものとして、評価、算定するのである。

このように、「社会経験則と常識を持って、より正確に、確実なものとして、損害が現実化したものとして評価、算定する」算定基準の一例が、

イ 現実に修理して、現実に支出した修理代金額
であり、また

ロ 現実に損傷の存在を理由として現実に減額された下取り減額金額相当額

等なのである。

現実化されていない,仮定的修理費とか、仮定的下取り減額金額というような,仮定的な,抽象的な想定価額を不法行為制度の中で、損害額算定の基準として採用することは不当である。

そのような現実化していない,仮定的に想定,算定された金額が,発生した損害の評価としての正当性を付与される理由も根拠もないからである。

また、仮に、仮定的修理費とか、仮定的下取り減額金額等というようなものを損害金額として採用してもよいということとなれば、損傷車両について想定される上記2種類(上記2種類の場合に限定されない)のいずれの仮定的金額(仮定的修理費を採用するのか,または,仮定的下取り減額金額その他)を採用するのか、また、その選択採用の判定基準は何かなど損害額算定が困難となってくるおそれもあり、このような点から見ても、このような仮定的金額を損害賠償の請求可能な金額と把握するのは不当であることは容易にわかる。

しかし、他面、このような仮定的損害を,直ちには,賠償請求可能金額とは認めないとした場合、現実に修理した修理費の場合と現実に下取りをして貰った下取り減額の場合その他の場合とでは、必ずしも金額が一致するとは限らず、この点において、「加害者の支払うべき損害賠償金額は被害者の事故後の行動に影響を受けることとなる」という側面があるが、被害者の行動が通常一般人のとるべき行動の範囲内であって,損害回復の方法として予見可能性の枠内のものであれば,加害者としては被害者の行動に即して「発生が現実化したと認められる損害金額」を賠償すべきということとなる。

換言すれば,損傷発生の事実により,直ちには,損害賠償請求可能な金額が特定,決定されるわけではなく,その後の被害者の,社会的相当性の枠内の,一般的に予見可能な範囲内の行動等により,金銭的損害賠償請求可能な被害金額が特定,決定されていくと理解すべきものである。

四 損害発生の事実と損害額評価を峻別せず混同する誤り

1 損害発生の事実と損害発生が現実化したものとしての損害額評価を峻別せず混同すると、不当な認定、判断をしてしまうこととなる。

例えば、車両損傷事故において、被害者が① 損傷車両の修理をせず、② 修理の見積書をのみを取得し、③ その後、車両を廃車したような場合において、前記したような、損害発生の事実と現実化したものとしての損害額評価を峻別せず混同する誤りを犯し、

① 車両損傷は発生しており

② その評価金額は修理費見積金額であると認定し

③ その後、損害が消滅したとの事情が認められないから、

④ 加害者は被害者に対し、修理見積書記載の金額を

⑤ 損害賠償金とて支払うべきである

というような不当な認定、判断である。

3 このような認定、判断は不当であり,「理由不備の違法」という上告理由となる。

このような場合における「仮定的修理費の見積書」は「損害が,現実化したものとしての,金銭的損害賠償の算定基準にはなり得ない」からである。

五 仮定的修理費について

1 本稿で判明するとおり,いわゆる仮定的修理費は,それと同額の金額が損害金額として認定されることはあったとしても,仮定的修理費それ自体が金銭的損害賠償額算定の基準となるものではないということである。

2 少なくとも,損害賠償請求事件のなかで,

(1)車両損傷事件であり,

(2)車両の走行機能に直接関係しない損傷であって,

(3)時の経過により,当該損傷の修理が想定されなくなるような事例の場合(例えば,車両ボディの損傷であって,新車のときには目立ち,修理が求められるものの,中古車両となったような場合,多数のボディ損傷のひとつとして埋没するようなもの等)においては,

仮定的修理費は損害が現実化していないものであり,その金額をして金銭的損害賠償請求可能な金額と把握するのは不当ということとなる。