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プロバイダーの民事責任 - プロバイダ概念の再検討(1)

1999年8月7日  桐蔭横浜大学法学部助教授(法情報学) 笠原毅彦

 

初めに

本稿の目的は、いわゆる「プロバイダ」概念の法的な意味を再考することにある。問題意識は、日本での議論が「初めにプロバイダありき」という議論になってしまっているように思われる点にある。訳してしまえば、「提供者」でしかないこの言葉が、一人歩きしてしまっているのではないかという点である。以下、まず、これまでの議論を振り返り、その後で、プロバイダ概念を考えていく。

[1]ニフティ裁判

平成9年5月26日東京地裁で、パソコン通信ニフティサーブの会員が、ニフティでは、フォーラムと呼ばれる掲示板中の侮蔑的な書き込みした被告と、これを削除しなかったシスオペ(2)とニフティ株式会社を訴えた事件に判決が出された。

東京地裁は、書込をした被告に不法行為責任を認めた上で、シスオペとニフティ両被告の責任に関し、「契約上」の責任はないとした上で、条理に基づいて書込を削除する作為義務を認め、不作為の不法行為責任があるとして、損害賠償を命じた(3)

「プロバイダ」の責任を論じるにあたって、この判決から話を始めるのは、これから論じるとおり、問題があるように思われるが、日本におけるコンピュータ通信に関する最初の判例として、その後の議論を方向付けたという意味で、重要な判決といえる。

当該判決における、モアスピーチ(対抗言論)に対する考え方等、「表現の自由」に関する結論の是非は別として、パソコン通信事業者に、「契約責任」は否定したとはいえ、「不法行為責任」を認めたことで大きな話題となった。

この判決が、日本におけるコンピュータネットワークに関する初めての判決ということもあり、先行する事例の多いアメリカの事件ないし規制が紹介され、検討された。


(注)

1 注に記載されているURLは、1999年7月脱稿時のものである。

2 フォーラムの管理者

3 判決全文につき:判時1610号22頁、判タ947号125頁

[2]アメリカにおけるプロバイダ規制

1. 四つの裁判

アメリカの判例における「表現の自由に関するメディア規制」は、その編集権ないし編集可能性、もっと一般的に言えば、内容に関するコントロールの可能性という観点から、三類型に分けられている。

表現者と同程度に内容に関与することができる出版者等、編集権能のあるところは、Publisherとして、その内容につき表現者と同じ責任を負い、表現されたものを販売ないし閲覧に供するだけの書店・図書館等の配布者は、Distributorとして、違法な情報の存在を知りまたは知りうべき場合でなければ責任を負わず、内容に関与できないばかりか、内容について秘密を守らなければならない通信事業者(Common Carrier)は、責任を負うことはないとする。

判例を見てみると、コンピューサーブ事件(4)では、「コンピューサーブは、distributor で、違法な情報の存在を知りまたは知りうべき場合でなければ、責任を負わない」とした。プロバイダを書店ないし図書館と同じ配布者として、責任を否定した。これに対し、プロディジィ事件(5)では、「プロバイダは編集権を行使している限り publisher としての責任を負う」として肯定した。契約上、また、実際の運営においても、会員のメールによる掲示板に対する書込に、削除等のコントロール権を留保していたため、編集者としての責任を認めている。

これにより、違法ないし不適切な言動をチェックし、管理権を行使しているプロバイダが、管理権を行使せず、放置しているプロバイダより重い責任を負うという結果になった。当然、この結論は、不適切な情報を積極的に管理しているプロバイダが、負わされる可能性のある責任を回避するために、管理をやめることを促すという結果をもたらす。実際に、プロディジィは、この事件の後、書込に対する管理をやめている。

この矛盾を受ける形で、1996通信品位法(Communications Decency Act of 1996 "CDA")が成立。その中に、「よきサマリア人条項」と呼ばれる二三〇条(c)(1)を置いた(6)。 

連邦通信品位法230条(c)(1) 双方向情報通信(インターラクティブコンピュータサービス)の提供者(プロバイダ)または利用者は、別の情報コンテンツ提供者(インフォメーションコンテンツプロバイダ)が提供する情報の発行者(Publisher)または発信者(Speaker)として扱ってはならない。

(2) 双方向情報通信サービスのいかなる提供者も利用者も、以下の行為につき民事上の責任を負わされることはない。

(A) 当該情報が憲法上保護されるとされないとに関わらず、提供者ないし利用者が、わいせつで、みだらで、扇情的で、ひわいで、過度に暴力的で、嫌がらせ的で、または納得しがたいと考える情報に対してのアクセスまたはその利用を制限するために善意でとった行為。

(B)第一項で規定した情報に対するアクセスを制限するための技術的手段を、情報発信者またはその他の者に対して利用可能とするためにとった行為。

一項は当然の規定で、ユーザーはインターネットに接続させるローカルネットワーク(例えば、大学、職場、パソコン通信事業者等)から、様々なサイトへ飛ぶことが出来るが、そのすべての内容に付き、インターネットに接続させたプロバイダが責任を取ることは不可能である。二項は、不適切な情報を管理することによる出版社(Publisher)としての民事上の責任を免責した規定である。

この通信品位法の規定の趣旨は、前述した矛盾、すなわち、より積極的に不適切な内容を管理しているプロバイダにより重い責任を負わせることになるという結果を防ぐことにより、プロバイダに適切な管理を奨励することを目的としている。

しかし、出版者(Publisher)類型を免責するのであれば、書店・図書館に対比される配布者(Distributor)類型も免責されなければ、従来の「表現の自由の制限」理論からすれば、逆の矛盾を生じることになる。つまり、より責任の重い出版社類型は免責されるのに、責任の軽い配布者類型が免責されないという矛盾である。この点がまさに問題となったのが、ゼラン対アメリカオンライン事件(7)である。事案は、法律が出来る前に生じた事件に対する判決で、判決時には法律が成立していた(8)。判決は、通信品位法230条を根拠に、プロバイダは publisher としての責任も distributor としての責任も負わないとし、プロバイダの責任を否定した。

日本においては批判的な見方も見られるが(9)、その後のブルーメンタール対ドラッジ及びアメリカオンライン事件(10)でも、同様の判決がなされており、アメリカの判例上は、プロバイダが責任を負わない方向性が確定してきているといえる。


(注)

4 Cubby Inc. v. Compuserve Inc., 776 F.Supp. 135 (S.S.N.Y. 1991

5 Stratton Oakmont, Inc. v. Prodigy Services Co., 1995 NY Misc.

6 http://www4.law.cornell.edu
/uscode/47/230.html
 参照。

7 Zeran v. America Online Inc., No.97-1523 (4th Cir. 1997)

8 このため、通信品位法の適用自体も争点となり、判決はこれを認めた。

9 二三〇条を「根拠に、プロバイダは publisher としての責任も distributor としての責任も負わないとし、本件で、プロバイダの責任を否定した。しかし、これでは何の落ち度もない被害者は全く救われず、この判例に味を占めた不正利用者がますます誹謗中傷行為を拡大させていくことが懸念される。プロバイダの負担をさけるために、被害者の救済を否定するような考え方には同意できない。」(後藤啓二「インターネット条の誹謗中傷、詐欺その他違法・有害情報の現状と対策について(上)」警察庁生活安全局生活安全企画課理事官 ジュリスト1159号123頁)との批判がなされている。AOLの当該事件に対する同条の適用自体を批判しているものと思われる。ただ、批判の対象とされている条項は、二三〇条(c)(1)であり、もしこの条項に対する批判だとすれば、例えば、警察庁のネットワークからインターネットにはいることが出来る限り、interactive serviceproviderとなり、例えばニフティサーブ(other information contents provider)での違法な書込に、警察庁が責任を負うことになる。

10 Sidney Blumenthal and Jacqueline Jordan Blumenthal v. Matt Drudge and AmericaOnline Inc., No.97-1968(U.S. District Court, District of Columbia)

2. 通信品位法におけるプロバイダ概念

通信品位法は、様々なプロバイダの概念を規定している。例えば、ケーブル提供者Provider of Cable Service(一五二条)、ダイアルQ2提供者Provider of pay-per-call service(二二八条(c)(1))、等である。これら「プロバイダ」の訳は、単に「提供者」であり、インターネットとは直接は関係がない一般的な用語として使われている。

インターネットとの関係で、二つのアメリカオンライン事件で問題となった、230条を見ると、その中だけでも、以下の、三つのプロバイダが規定されている。

インターラクティブサービスプロバイダ(双方向通信役務提供者)

「サーバーコンピュータに対する、複数ユーザーのアクセスを提供ないし可能にする、あらゆる情報サービス、情報システムまたは、アクセスソフトウェアサービス」

「特に、インターネットへのアクセスを提供するサービスまたはシステム、および、図書館ないし教育機関によりおかれるシステムないしサービスを含む。」

インフォメーションコンテンツプロバイダ(情報・内容提供者)

「インターネットその他の双方向コンピュータサービスを通じて提供される情報の、全部または一部についてその作成または維持(development)につき責任のある者ないし機関(entity)」

アクセスソフトウェアプロバイダ(ソフトウェア提供者)

「(クライアントサーバソフトウェアを含む)ソフトウェアの提供者、または、以下の一つないし複数を可能にする手段(tools)の提供者

(A)フィルター、スクリーン、コンテンツの選別

(B)コンテンツの抽出、選別、分析、要約

(C)コンテンツの送信、受信、表示、転送、一時保存(キャッシュ)、検索、分類(subset)、統合、再構成、翻訳(11)

このように、本来、「プロバイダ」という言葉は、元の言葉の意味としては、インターネットに限定されない特定のサービスの「提供者」という意味しかなく、「サービスプロバイダ」の語も、「役務提供者」という意味でしかない。インターネットに限らず、様々なサービスの提供者があり、それぞれについて個別の規制がなされている。

これに対し、日本では、多くの論考で、単に「プロバイダ」という言葉が使われている。そのほとんどは「インターネットサービスプロバイダ」(12)の意味で使われ、ISP(13)と略されることが多い様に思われる。訳すとすれば、「インターネット接続業者」である。しかし、インターネットへの接続形態だけをとっても様々な形があり(14)、サービス提供者にしても様々な形がある。それらすべてをプロバイダという一つの言葉で表わすことには無理がある。

それらの論考においても、個々の使われ方を子細に見ていくと、実際にはこの「プロバイダ」という言葉の下で、オンラインサービスプロバイダ(OSP パソコン通信事業者)や、コンテンツプロバイダ(コンテンツ提供・管理者)が論じられてしまい、無用の混乱を招いているように思われる。この意味で、インターネット及びプロバイダという二つの概念を、特にプロバイダが提供するサービスの観点から、もう一度、考えてみる必要がある。


(注)

11 通信品位法230条(e) 定義

12 守下実 「プロバイダの管理責任(1)」情報ネットワークの法律実務 3345頁では、インターネット接続「サービスを提供する者をIAP(インターネットアクセスプロバイダ)と呼んで、インターネット上で情報提供サービスを行う者であるICP(インターネット・コンテンツ・プロバイダ)と区別することもある」としている。

13 ただし、平野晋/相良紀子 「解説「Zeran対AOL」事件」 判例タイムズ985号72頁では、ISPを、通信品位法二三〇条でいうインターラクティブサービスプロバイダの意味で使っている。

14 通信形態として、衛星通信・ケーブルネットワーク・電話回線・無線といった接続方法がある。この意味で、通信事業法だけでインターネットを語ることは出来ない。

[3]ドイツにおけるプロバイダ規制

マルチメディアの領域に、世界に先駆けて統一的な法的枠組みを作り上げた国として、ドイツの法律に触れておく。

1997年7月22日ドイツでは、情報通信サービスの枠組みを定める法律(15)(以下「マルチメディア法」と略す。)を定めた。さらに、同年8月1日メディアサービスに関する州際協定(16)(以下「メディアサービス協定」と略す。)が、定められている。連邦国のドイツでは、基本法の制約(17)から、電気通信、経済、著作権に関しては連邦が、新聞、雑誌に関しては州に立法権があるため、このような二つの法律が制定されているが、プロバイダの責任に関しては、ほぼ同じ条文がそれぞれに置かれている。

マルチメディア法第一章テレサービスの利用に関する法律(以下、テレサービス法と略す。)によれば、適用の範囲は、次のように定義されている。「以下の規定は、通信手段を伝送手段の基盤に持ち、文字、図案または音響のような相互に関連付けられるデータの私的利用を目的とするすべての電子的な情報サービス及び電子的な通信サービス(テレサービス)について適用がある(第2条第1項)」。具体的には、個別通信の領域における提供(たとえば電子バンキング、電子データ交換)、主として一般大衆の意見形成に重きを置いた編集物以外の、情報または通信の提供(データ・サービス(18))、インターネットまたは広域ネットワークの利用の提供、電子通信による諸々の利用の提供、双方向的で直接的に接続可能な機能を持った電子的で即答的なデータバンクにおける物品供給またはサービス供給の提供を挙げている。

そして、これは、「無償であるか有償であるかどうかを問わず、適用がある」(第3項)としている。さらに、第三条で、用語を定義し、「この法律においては、サービス提供者(Dienst Anbieter即ちサービスプロバイダ - 筆者注)とは、自然人もしくは法人または人的団体であって、利用に向けられた自己もしくは他人のテレサービスを実施し、または利用へ向けられた接続を媒介するものを意味する。」とする。

上述した、アメリカの通信品位法の用語で言えば、インターラクティブサービスプロバイダということになるだろう。このサービス提供者の民事責任は、第5条に規定されている。

(1) サービス提供者は、その利用に際して用いられた自己のコンテンツについては、一般の法律に基づく責任を負う。

(2) サービス提供者は、その利用に際して用いられた他人のコンテンツについては、そのコンテンツに関する知識があり、そのコンテンツの利用を止めるための技術を利用可能であるか、もしくはそれを期待できる場合に限り、責任を負う。

(3) サービス提供者は、他人のコンテンツについては、単にそれをテレサービス利用に接続したというだけでは責任を負わない。利用者の行為(Abfrage)に基づいて他人のコンテンツを自動的に短時間保持することは、接続行為として扱われる。

(4) 電子通信法第85条に定める通信の秘密条項の下にあるサービス利用者が、そのコンテンツの内容に関する知識を持っており、違法状態を技術的に取り除くことが可能かもしくはそれを期待できるときは、利用者の違法コンテンツの禁止違反行為に対する一般の法律に基づく責任が失われることはない(19)

マスメディアの領域を規定する、メディアサービス協定では、テレサービス法五条の四項がない代わりに、刑法上違法な内容の制限ないし青少年保護(八条)、反論権(一〇条)等、マスメディア特有の制限規定をおいている。


(注)

15 Gesetz zur Regelung der Rahmenbedingungen fuer Informations-und Kommunikations-dienste [Informations- undKommunikationsdienste-Gesetz - IuKDG vom 22. Juli 1997 (BGBl. IS.1870)] BGBL. I S.1870

http://www.jura.uni-sb.de/BGBl/TEIL1/1997/19971870.A10.HTML

http://www.digi-info.de/recht/di_recht_mmgesetz.html

http://www.iid.de/rahmen/iukdgk.html

なお、EU指令として、Richtlinie 95/46/EG des EuropaeischenParlaments und des Rates vom 24. Oktober 1995 zum Schutznatuerlicher Personen bei der Verarbeitung personenbezogener Datenund zum freien Datenverkehr

http://www2.echo.lu/legal/de/
datenschutz/datensch.html
 参照。

16 Staatsvertrag ueber Mediendienste vom 1. August 1997 NWGVBL1997,134 http://www.netlaw.de/gesetze/mdstv.htm

17 基本法70条、73条、87条f ドイツの規制に関しては、鈴木秀美「インターネットと表現の自由 - ドイツ・マルチメディア法制の現状と課題」ジュリスト1153号91頁が詳しい。

18 たとえば、交通データ、気象データ、環境データ、市場データの提供または物品もしくはサービスの供給に関する情報の提供

19 邦訳として、夏井高人

http://www.isc.meiji.ac.jp/~sumwel_h/
doc/code/act-1997-german-1.htm

イタリック体の4項は、メディアサービス協定にはない。

[4]日本におけるプロバイダ規制に関する議論

1. プロバイダ規制と通信の秘密

日本におけるプロバイダ規制論は、ニフティーサーブというパソコン通信、あるいは、コンテンツプロバイダのわいせつ物の取り締まりから始まったため、表現の自由との関係を中心に議論されている。プロバイダの役務(サービス)との関係では、そのコンテンツ規制と、電気通信事業法上の「検閲の禁止」、「通信の秘密」との関係が問題となる。

 具体的には、①プロバイダが掲示板を覗く行為が通信の秘密を犯すか否か、②不適切な書き込みの削除が検閲になるか否か、③プロバイダに対する発信情報の開示請求を、通信の秘密保持義務を理由に拒絶することが出来るかという議論である。

考え方としては、

i) 電気通信事業法三条の検閲主体は行政権に限られ、電気通信事業者には適用がない(20)

ii) 電気通信事業法三条、四条ともに、電気通信事業者を名宛人に含んでいるが、掲示板への書き込みのように「公然性を有する通信」は、通常の通信と異なり、不特定多数を受け手に想定しているため、適用されない(21)

 

iii) 電気通信事業法三条、四条ともに、電気通信事業者を名宛人に含み、公然性を有する通信であっても、通信である以上は適用がある(22)

とする三説が対立している。

また、プロバイダに対する発信者情報の開示請求に対し、通信の秘密保持義務を理由に開示を拒絶することが出来るかという問題に関しては、公然性を有する通信は、通信文本体については秘密性を持たないとしても、発信者を特定する本名や住所等の情報は秘密性を有すること、すなわち、通信の秘密は通信文のみならず、その発信者情報にも及ぶという点に関しては、争いがないように思われる。ただし、考え方としては、秘密保護は通信文本体にしか及ばないが、通信文本体の推測を可能にするような発信者情報は、通信文の秘密保護のために秘密にすべきとするものと、発信者情報も、通信文本体と独立して秘密性を有する(23)とする考え方がある。前者の立場では、通信文本体が秘密でない場合、発信者情報も秘密性を持たないことになる(24)


(注)

20 郵政省は、電気通信事業法三条の検閲主体を行政機関に限るとするが、電気通信事業法は民間の電気通信事業者を対象とするものであり、三条に関して、国家のみを対象とする規定と解するのは不自然である。高橋和之 「インターネット法制」の現況と将来像 ジュリスト1150号78ページ

21 高橋和之 「インターネット法制」の現況と将来像 ジュリスト1150号78ページ

22 速水幹由 「インターネットプロバイダの法的責任論」〈通信役務説の立場から〉インターネット法学案内191-92頁

23 郵政省「電気通信サービスの不適正利用に係る発信者情報の開示についての考え方」に対する意見募集について(以下、「郵政省意見募集」と略す。) 

http://www.mpt.go.jp/pressrelease/
japanese/tsusin/981127j501.html

24 郵政省意見募集「受信者その他の通信内容を知る者に対しては発信者情報を保護する必要がないのではないかという考え方があるが、消極に考える。すなわち、発信者には受信者に対して、自分が誰であるかを秘密にしようとすることに相当の理由がある場合がある(例えば、警察への通報、身の上相談や内部告発の場合など)。したがって、現行法規定は、このような場合を想定し、そうした発信者の意思を尊重し、通信の媒介者がみだりに外部に漏洩することを禁じているものと考えられる。」

http://www.mpt.go.jp/pressrelease/
japanese/tsusin/981127j501.html

2. プロバイダのサービス(役務)

プロバイダのサービス(役務)自体を論じたものとして、牧野二郎「インターネットプロバイダの法的責任論」インターネット法学案内187頁以下がある。通信役務説と付随役務説の二説が主張されている。

「通信役務説」:プロバイダの行う事業内容(通常の通信媒介の他、ホームページサーバのレンタルなどのサービス)を電気通信事業者の行う通信役務としてとらえたうえで、電気通信事業者の通信役務に対する検閲の禁止、通信の秘密を前提に、事業者は「通路提供」を行うものであり、その通路を通過する内容、すなわち個々の会員によるホームページ等からの情報提供に対してはいかなる意味でも責任を負担しない、とする立場(25)

「付随役務説」:通信役務を限定的にとらえ、プロバイダとしての最低限必要とされている狭義の通信媒介(インターネット接続サービスのみ)を通信役務と考え、その範囲では通信役務説と同様の考えをとるものの、ホームページなどの掲載に関するハードディスクのレンタルを通信役務とは別の「付随役務」と理解して、賃貸借類似の会員との間の契約責任、契約外第三者に対する管理責任(不法行為責任)を肯定する(26)


(注)

25 速水幹由「インターネットプロバイダの法的責任論」〈通信役務説の立場から〉インターネット法学案内187頁

26 牧野二郎 「インターネットプロバイダの法的責任論」〈付随役務説の立場から〉インターネット法学案内 200頁

3.従来の議論の問題点

以上の議論の問題点は、専用回線・サーヴァーを持ち独自にドメイン名を取得している個人及び教育機関その他の機関に、通信事業法の適用がないことにある。アメリカ法の概念で言い直すと、インターラクティブサービスプロバイダで、インターネットサービスプロバイダを除いたもの(27)は、適用がないという点である。潜在的な利用者も含めて、三〇〇万人を越える教育機関関係者(28)等が、いわゆるインターネットサービスプロバイダと直接契約している場合でなければ、抜け落ちてしまう。さらに、原点に返って考えると、インターネットは教育機関のネットワークとして発展してきたものであり、一般の人も利用できるようにしたものが、いわゆるインターネットプロバイダであったはずである。はたして、現在の形の議論でよいのか、今一度、インターネット、プロバイダという概念を検証してみる必要があるように思われる。


(注)

27 本来、インターネットサービスプロバイダの概念は、「インターネットへの接続サービスを提供する者」であり、アメリカ法でいうインターラクティブサービスプロバイダは、VAN(付加価値通信等、インターネット以外の通信も含む概念である。その意味で、インターネットサービスプロバイダを、本稿のように、業者による接続サービスに限定することには、異論の余地がある。本稿では、従来からのインターネットと、商用利用が認められた後のインターネットの区別を明確にするために、インターネットサービスプロバイダを業者によるもののみに限定して使う。

28 文部省の統計(平成一〇年五月一日)によれば、3,106,932人の在学生と336,132人の本務教員、187,170人の本務職員が存在する。

http://www.monbu.go.jp/stat/r316/tk0100.GIF

[5]プロバイダー概念再考

1. インターネット(29)とオンラインサービスプロバイダ(30)(パソコン通信)

インターネットは一九六九年に始まったアメリカ国防総省高等研究計画局の接続実験に始まるといわれる(31)。その後、七〇年代、軍関係を中心に活用されたネットワークは、八〇年代になると、ARPAnet・USEnet (Unix network)の相互接続等、教育・研究機関のネットワークとしてさらに活用されるようになる(32)。同じ頃、日本においても、NINET(一九八一年)、JUNET(一九八四年)といった研究機関のネットワークが成立し、その後、日米のネットワークが研究機関同士のネットワークとして相互に接続された。「インターネット」という言葉は、複数のネット、ローカルネットワーク(LAN)、大学等、研究機関のネット(LAN)の間(インター)をつないだことを表す言葉で、本来このネットワークは、研究機関のネットワークであった。

主としてUnixの機械をつないだこのネットワークでは、mail、telnet、ftp、gopher、talk等のコマンドを利用でき、隔地間のコンピュータ同士でネットワークを通じ、メールやファイルのやりとり、相互接続、会話がなされ、これらは現在でも使われている。

 すでに、メール機能を利用して、特定の登録者グループの間でのメーリングリスト、さらに、インターネット接続が可能なすべての人が利用できるネットニュースと呼ばれるものがあり、利用されている。前者は、登録者のみの掲示板、後者は世界中に開かれた掲示板とでもいうべきものであり、パソコン通信の会議室(33)と同じ様な機能を果たしている。また、個人のサイト(ホームページ)でも、BBSと呼ばれる掲示板機能を利用することができ、ニフティの会議室と同様の機能を利用できる。

ここで注意しなければならないのは、ニフティー判決で問題となった名誉毀損等の不適切な内容に関する責任の問題は、パソコン通信だけでなく、大学等の研究機関、あるいは、ネットワーク接続をしているすべての公的機関にも当てはまる問題であることである(34)。後述するパソコン通信のプロバイダ(オンラインサービスプロバイダ)とより広い概念であるインターネットサービスプロバイダ(35)ないしインターラクティブサービスプロバイダの性質の違いを考慮した上で、狭い前者のみに妥当する議論なのか、より広い後者にも妥当する議論なのかを明確に区別する必要がある。と同時に、通信事業法の適用のないインターラクティブサービスプロバイダを包含した議論の展開が必要となる。

パソコン通信のプロバイダ(オンラインサービスプロバイダ OSP)は、八〇年代中旬以降、インターネットと別個のものとして、当初はむしろ前者の学術利用、後者の商用利用という目的の違いから、相容れないものとして発展してきた(36)

インターネット上でパソコン通信を位置付ければ、インターネットでつながれた個々のローカルネット、例えば、大学内ネットワークが、これと同じレベルにある。かたや会員(パソコン通信)かたや教職員・学生(ローカルネット)という、閉鎖的な組織の中で、その構成員の間での通信がなされる形を取る。インターネットとは、それら、ローカルなネットワーク全体をつないだものである。

その後、アメリカにおいて一九九一年、インターネット協会が設立され、日本において翌年IIJ(37)が設立され、インターネットが商用サービスにも解放されることとなった。これにより、インターネットとパソコン通信は、目的の違いから来る境界がなくなり、相互に乗り入れることになる(38)。あるいは、規模を無視すれば、パソコン通信自体が一つのローカルネットワークであり、パソコン通信も、インターネットに組み込まれたと言い換えることが出来る。

このような、両者の歩みの違いは、単なる歴史の違いのみでなく、その構造・組織も全く異なるものにしている。

まず、ネットワーク構造が全く異なる。パソコン通信は、ローカルネットワークで、パソコン通信事業者とユーザーの間で利用契約を結び、パソコン通信事業者の有するホストコンピュータにいわば、垂直に接続し、このコンピュータを利用するもので、会員となったユーザーの間の閉鎖的なコミュニティーを形作る。これに対し、インターネットは、当初は研究機関のネットワークを相互に水平につないだもので、その維持管理は各研究機関のボランティアによる。また、接続可能なホストも、パソコン通信の場合事業者のホストコンピュータ一カ所(39)であるのに対し、インターネットの場合、ネットワーク接続されているコンピュータであれば、どのサイトからでも利用することができる(40)。さらに、ネットワーク管理に関し、パソコン通信の場合パソコン通信事業者、ないし、シスオペ(シグオペ、ボードリーダー等)の一括管理がなされるのに対し、インターネットの場合は同じ様な包括的な管理者がいない。この意味で、パソコン通信とインターネットは明確に区別して議論する必要がある(41)


(注)

29 パソコン通信を含んだインターネットの歴史に関しては、アレクソンのウェブサイトhttp://www.alexon.co.jp/know/inter/shikumi3.html がわかりやすい。

30 http://www.netlingo.com/lookup.cfm?term=OSP 参照。

31 PENTAGON http://www.defenselink.mil/pubs/pentagon/

アーパネットの歴史 http://www.dei.isep.ipp.pt/docs/arpa.html

アーパーネット年表 http://www.cybergeography.org/atlas/historical.html

 

ただし、村井純「インターネット」岩波新書四六頁は、軍事ネットワークから始まったとする見方には反対している。

32 CSnet (Computer Science Network):http://www.csnet.net: 1975年 NFSNETで高等教育機関に解放。1989年 NFSNETがARPAnetを吸収。

33 ニフティサーブ及びコンピューサーブで使われている「フォーラム」という呼称が会議室や掲示板の代名詞のように使われることがあるが、PC-VANではシグ、AOLではボードと呼ばれ、それぞれのパソコン通信で独自の名前を付けている点、注意が必要である。同様に、シスオペ(システムオペレータ)も、シグオペ、ボードリーダー等呼称が異なる。

34 プロバイダの責任を、報償責任に基づく企業責任として捉えるとすれば、従来からの研究機関の間のインターネットには、これが当てはまらないことになる。

35 http://www.netlingo.com/lookup.cfm?term=ISP 参照。 

36 パソコン通信の歴史に関して、「ネットワーク社会の未来 シンポジウム」

http://satellite.nikkei.co.jp/hensei/aol/personal.html 参照。

37 IIJに関しては、http://www.iij.ad.jp/。学術目的のものとして同時にTRAIN他が設立された。http://www.train.ad.jp/(但し、平成一一年三月三一日運用停止。)さらに、WIDEプロジェクト参照。http://www.wide.ad.jp/index-j.html 

38 ただし、相互のメールの交換に関しては、1988年から進められたワイドプロジェクトにより、1992年から相互接続実験がなされていた。

http://www.wide.ad.jp/about/progress-j.html#1988 参照。

39 アクセスポイント(接続場所)が複数あるのはいうまでもない。

40 インターネット上の宣伝との関係で、ポータルサイト(入口となるサイト)競争が繰り広げられている。

41 手嶋豊「パソコン通信での中傷に賠償を命令」法学教室206号17頁は、パソコン通信事業者をプロバイダとし、シスオペを被用者とする。新美育文「パソコン通信での名誉毀損」法学教室205号73頁は、パソコン通信事業者をプロバイダとし、プロバイダの責任として債務不履行責任(安全配慮義務違反)として構成すべきであったとする。

2. インターネットサービスプロバイダ

インターネットが商用サービス等、一般に解放されたため、研究機関に所属しない人が、インターネットを利用できるように、プロバイダーと呼ばれるインターネット接続業者(インターネットサービスプロバイダ)が数多く出てきた。また、大手パソコン通信事業者(オンラインサービスプロバイダ)も、積極的にインターネットと接続し、プロバイダの諸機能をその中に取り入れてきた。その中で、大手インターネットサービスプロバイダもまた、サービス向上のため、パソコン通信のサービスをその中に取り入れてきた。大手パソコン通信事業者が、大手プロバイダーと区別のつきにくいものとなってきているのは事実である。しかし、いわゆる草の根ネットと呼ばれる小さなパソコン通信ではインターネット接続をしていないところも多く存在する。また、インターネット接続している場合も、プロバイダにしてもパソコン通信にしても、その提供するサービスには様々な内容があり、その個々のサービス内容に応じて法的責任も当然、異なるものとなるはずである。

従来のプロバイダの議論の仕方では、一方で、インターネットの商用利用以前からの本来のインターネット利用者である研究機関等の接続が、その対象から外れてしまう。また、他方で、様々なサービスを展開し、将来的にはデジタル化、マルチメディア化の進展で、より多彩なサービスが展開されることが予想される中で、論者一人一人のプロバイダ観の違いにより、ますます議論が混乱していくように思われる。

プロバイダの類型化の議論も、そもそもプロバイダが、何らかのサービスプロバイダであることを考えれば、サービス提供者の類型論になる。これは、結局、何をサービスするかという類型論であり、サービス自体を類型化することになる。従来忘れられていた、「何の」プロバイダ(提供者)であるのかという、サービス自体への議論へ戻る必要があるように思われる。

3. サービスプロバイダの類型論

この意味で、今一度、インターネットに関するサービスを基準にプロバイダを見てみると、まず、インターネット接続を提供するすべてのものとしてのインターラクティブサービスプロバイダ(双方向通信役務提供者)(42)がある。通信事業法の適用のない研究・教育機関等を含む一番広い概念である。簡単な例を挙げれば、大学からtelnetでニフティーサーブにつないだ場合、あるいは、大学から直接ニフティサーブのウェブサイトにつないだ場合、ユーザーをインターネットに接続させる機能としてのプロバイダ機能は大学のコンピューターがこれを行っているが、仮に学生がニフティーのフォーラムに名誉毀損になるような書込をした場合、インターラクティブサービスプロバイダが責任を負うとすれば、大学がその責任を負わなければならなくなる(43)。この場合も責任を負う可能性があるのはニフティであり、その責任の根拠となるのは、現実に発言に対する管理がなされているからである。換言すれば、ユーザー(接続機能利用者)に対するサービスの管理可能性が責任の根拠となりうる。

この点で、業者としてインターネット接続のサービスを提供する「インターネットサービスプロバイダ」がある。プロバイダ自身がべっこうあめその他の大手インターネットサービスプロバイダ(44)のように、ポータルサイト(インターネットの入り口として利用されるサイト)を持ち、さらにその中でフォーラム類似のサービスをしている場合は格別、そうでない場合は、単にインターネットへの接続のためだけに使われるだけである(45)。 

さらに、インターラクティブサービスプロバイダおよびインターネットサービスプロバイダから、インフォメーションコンテンツプロバイダを区別する必要がある。デジタルコンテンツ(文字、音楽、映像等のデジタル情報)をインターネット上で公開しているプロバイダのことで、その内容は、二つに区別される。デジタルコンテンツ自体をコンテンツプロバイダ自身が作成している場合と、コンテンツプロバイダの利用者が作成し、そのサーヴァー上に置いている場合である。コンテンツを「情報」と訳すとすれば、「情報提供・管理サービス提供者」ということになる。もちろん、多くのコンテンツプロバイダは、同時にインターネットサービスプロバイダであり、インターラクティブサービスプロバイダである。

インフォメーションコンテンツプロバイダも、マルチメディア化の進展により、すでに、インターネット電話、ラジオ局、オンライン新聞、あるいは、今年中には、有料音楽配信局が出来ようとしている。さらに、次世代インターネットで、より大量の情報(コンテンツ)が送れるようになれば、放送局、オンラインヴィデオショップ等が、コンテンツプロバイダとして出てくる。従来の、パソコン通信をイメージしたプロバイダの議論では、とうてい追いついていけないほど、現実の進展が早いように思われる。インターネット自身は、すでに特殊な通信手段ではなく、社会的インフラとして理解されるべき段階まで来ている。コンテンツプロバイダとして、オンラインテレビ局が出来れば放送法、オンラインヴィデオショップが出来れば、小売店等の流通に関する法律の問題が生じる。これらの電子商取引の役務提供者(サービスプロバイダ)として、すでに、CSP(コマースサーヴァープロバイダ)の概念も出てきている(46)


(注)

42 この概念自体は、インターネットだけでなく付加価値通信等も含むより広い概念であることに注意が必要である。

43 この問題を規定しているのが、通信品位法二三〇条(c)(1)、テレサービス法五条である。

44 ニフティ株式会社がインターネットサービスプロバイダとなったのは、1998年のことであり、判決の時点では、まだパソコン通信(オンラインサービスプロバイダ)でしかなかった。

45 例えば、OCN。

46 http://www.netlingo.com/lookup.cfm?term=CSP 参照。

[6]プロバイダの民事責任

1. インターラクティブサービスプロバイダの民事責任

もっとも広い概念としてのインターラクティブサービスプロバイダの責任を考えた場合、従来の議論で見落とされているものは、すでに何度か指摘しているが、インターラクティブサービスプロバイダから業者としてのインターネットサービスプロバイダを除いた部分である。インターラクティブサービスプロバイダから電気通信事業法の適用を受けるプロバイダを除いた部分と言い直してもよいだろう。

より具体的にするために、大学の例を取れば、そこでは、多くNTTの専用線を使い、独自のドメインを持ち、直接にインターネットにつながっている。しかし、通信事業法にいう通信事業者ではなく、同法の適用はNTT回線の部分にはあるが、ローカルネットワークとしての大学自身にはない。そこでは、メール機能を使ったメーリングリスト(47)、ネットニュース(48)、BBS機能を使った掲示板(49)、学生(大学によっては卒業生を含む)のウェブサイト(いわゆるホームページ)を置くサーヴァー機能があり、インターネットサービスプロバイダないしオンラインサービスプロバイダ(パソコン通信)とほぼ同等の利用がなされている。さらに、従来からのインターネットの機能として、様々なユニックスコマンドないしインターネット上のプロトコル(telnet, rlogin,(50) ftp(51), gopher(52),wais(53)等)も利用できる。また、従来型のインターラクティブサービスプロバイダーで接続した後は、インターネットサービスプロバイダで接続した場合と全く同じ様に、コンテンツサービスプロバイダそ の他のサービスを利用できることはいうまでもない。

こういった従来型のインターラクティブサービスプロバイダに関しては、何らの法規制もなされていない。インターネットとの接続に関する責任論を論じるにあたっては、電気通信事業法の議論だけでは足りず、これらの役務提供者(サービスプロバイダ)を含んだ議論が必要であり、私見では、インターラクティブサービスプロバイダ全体を視野に入れた立法が必要であると考える。

まず必要となるのは、管理可能性のない情報からの免責、具体的には、通信事業法230条(c)(1)、テレサービス法5条2項のような、他のインフォメーションコンテンツプロバイダの内容から生じる責任の免責である。

次に、インターラクティブサービスプロバイダは、利用者をインターネットに接続するサービスの提供者であるから、接続情報、接続者に関する情報(54)さらには、接続自体を維持・管理する立場(55)にある。通信の秘密、検閲の問題をどう考えるにせよ、これら通信事業法の規制を、通信事業法の適用のない従来型のインターラクティブサービスプロバイダにも適用するためには、新たな立法が必要となる。少なくとも、通信の秘密、検閲の禁止の規定は、これらのプロバイダへ適用される方向で立法がなされることが必要と考える。

通信役務説、付随役務説の議論から見れば、役務(サービス)により類型化する本稿の立場は、付随役務説に考え方としてはより近いものになるが、役務別責任説ということになろうか。一つのプロバイダは複数の役務を、その組み合わせは別として、提供するのが常態であることを考えると、通信事業法の適用のないプロバイダも含まれる点を別にすれば、結論としては、付随役務説と同じになるよう思われる。


(注)

47 メールの同時配信機能を利用したもので、一通のメールが、あらかじめ登録された者全員に配布される。ちょうど、オンラインサービスプロバイダのBBS(会議室)と同じ機能を営む。

48 ネットニュースはインターネット上で共通の興味を持った人同士で情報交換できるシステムである。これは、電子メールをニュースサーバといわれるコンピュータに蓄積することで実現している。このニュースサーバは世界的規模で、インターネット上に散在しており、投稿されたニュース(電子メール)は、ニュースサーバに書き込まれ、それが各サーバに次々と配送され、書き込まれる仕組みになっている。いわば、世界に広がったインターネット全体の巨大な電子掲示板である。パソコン通信のフォーラム(シグ等)に相当するものに、「ニュースグループ」があり、日本で見ることのできるものだけでも5000を越える。USENETという世界中に散在しているコンピュータにより構成された、膨大な数のニュースグループが集まった組織があり、インターネットのニュースシステムはこのUSENETとその他のニュースグループにより構成されている。そこでは、パソコン通信のように、会員とUSENETの間に契約があるわけではなく、また、シスオペのような管理者もいない。

ニフティー判決の論理でも、そこでの名誉毀損に、書き込んだ者以外に不法行為責任を認めることは困難である。さらに、パソコン通信における会議室の機能は、特に大学のネットワークが管理していない場合は、大学の教員・学生であれば、わずかなユニックスの知識で、メーリングリストやBBSの形で、簡単に置くことが出来る。また、最近は、商用プロバイダーでも、この機能を取り入れているところが多くなっている。

49 ウェブサイト上の掲示板機能。わずかなUnixの知識があれば、自分のウェブサイト(いわゆるホームページ)に、掲示板機能を持たせることが出来る。最近は、モジュール化されたフリーソフトが配布され、Unixの知識がなくても利用できるようになっている。

50 telnet, rlogin は、いずれも、ネットワーク上のコンピュータと接続するコマンド(プロトコル)である。ネットワーク上の他のコンピュータを、接続したコンピュータ上から利用することが出来る。詳細に関しては、Ed Krol 著、村井純監訳 「インターネットユーザーズガイド改訂版(以下「ユーザーズガイド」と略す。)」75頁、462頁参照。

51 file transfer protocol ネットワーク上の他のコンピュータとの間でファイルを送受信するプロトコル(コマンド)。「ユーザーズガイド」95頁以下参照。

52 インターネット上の検索ツール。「ユーザーズガイド」333頁以下参照。

53 wide area information service インデックスされた情報の検索。「ユーザーズガイド」379頁以下参照。」

54 パソコン通信というローカルエリアネットワーク内部であれば、発信者情報を特定するのも容易だが、インターネットでは非常に困難である。例えば、情報コンセントを設置する大学が増えているが、動的にIPアドレス(ネットワーク上でコンピュータに割り振られた番号)を割り振る構造をとっていれば、個人どころか、コンピュータを特定することすら出来ない。静的に割り振ってあっても(すべてのユーザーのコンピュータにIPアドレスを割り振ってあっても)、他人のIPアドレスを利用すれば、たまたま同時に同じIPアドレスで接続しない限り、接続されてしまう。

また、特定のIPアドレスから接続しても、匿名性を取得するため、他のネットワークのプロクシーサーバーを複数経由してしまうと、理論的にはたどることが出来ても、現実には非常に困難な作業になる。例えば、外国のプロクシーサーバーを複数利用されると、経由したサーバーのログの解析を依頼するだけでも大変である。そういった形で、他のネットワークに入り込み問題を起こすケースが頻発している。違法性を意識しているためか、匿名プロクシーサーヴァーの情報は、アメリカのウェブサイトに載ることが多いが、容易に検索することができる。一例として、http://members.xoom.com/8001/a4.html。ここに丸印をつけられているサイトは、一日も早く外部からのプロキシーサーバへのアクセスを切ることが必要であろう。また、なりすましやネットワークの不正アクセスに関する法律の制定が急務であるように思われる。

55 「郵政省意見募集」(前掲注23)では、電気通信サービスにより権利利益を侵害された被害者からの申立てに応じ発信者情報を開示することを明確化することがうたわれている。

2. インフォメーションコンテンツプロバイダの責任

従来、日本で議論されているプロバイダの責任論は、ほとんどが、この類型に関する議論である。インターネット上に情報を提供・管理しているプロバイダの責任である。大学等の研究機関その他、電気通信事業法の適用のないプロバイダも、コンテンツ(情報)を提供・管理している限りで、この責任を免れることが出来ず、従来の電気通信法等の議論だけで十分でないことは、この類型についても同じである。

オフラインで違法なものは、オンラインでも当然違法なものであり、犯罪行為等の取り締まりは、まず、警察等取締機関によりなされるべきものである。わいせつ画像の取り締まりは取締機関の責任で、プロバイダにその責任を負わせることは、私的検閲を求めることになり、認めることはできない(56)

民事責任に関して見ると、違法な情報をコンテンツプロバイダが自ら提供した場合、プロバイダが責任を負うのは当然である。問題は、違法な情報がコンテンツプロバイダに載せることができる者により作成され、結果として、コンテンツプロバイダがこれを管理することになった場合である。

名誉毀損等、第三者の権利が継続的に侵害されている場合に、内容を管理することが出来るプロバイダがこれを放置することは、第三者からプロバイダに民事賠償責任を追及される可能性がある。対処法として考えられるのは、アメリカ式に、プロバイダ自身の責任を免責するか、あるいは、ドイツ式に、プロバイダが違法なコンテンツの存在を知り、そのコンテンツの利用を止めるための技術を持ち、もしくはそれを期待できる場合に限り、責任を負うとするかのいずれかである。

基本的には、後者を妥当と考えるが、以下の点に注意が必要である。

コンテンツプロバイダが責任を負う可能性があるとすれば、法律家スタッフを抱えたプロバイダは別として、限界事例に関しては、安全のために内容の管理を強化することになり、自由・自己責任の下で発展してきた、インターネット上の表現の自由を阻害する可能性を否定できない。コンテンツプロバイダが拠ることが出来る明確な基準を作るとともに、削除等の措置を受けた者からする不服審査機関を設ける必要があると思われる。郵政省が提案する第三者機関(不適正利用対策機関(57))ないし類似の第三者機関をこれに当て、利用者の救済を図ることが可能かつ必要であるように思われる。

また、インターネットサービスプロバイダであれば契約時に、大学等の従来型のインターラクティブサービスプロバイダであれば利用規則等に、編集・削除等の管理がなされることを明確にしていないと、利用者からプロバイダに対し、民事損害賠償が求められる可能性がある。明らかに違法な場合を別にして、限界事例でこの判断をプロバイダに求めることは酷であろう。特にこれから、マルチメディアの進展とともに、著作権法上の問題、訪問販売法上の問題、不正競争防止法の問題、放送法上の問題、証券に関する行政法上の規制の問題等々、インターネットのインフラ化に伴い、デジタルコンテンツ中に様々な法律上の問題が入ってくる。コンテンツプロバイダ自身が専門家である場合を別にして(例えば、証券会社自身がコンテンツプロバイダとなり、証券の電子商取引をする場合)、それらすべての問題に対応できなければコンテンツプロバイダになれないとすれば、法律スタッフを抱えた相当規模のプロバイダ以外、コンテンツを提供できなくなってしまうであろう。

この意味で、郵政省が提案する第三者機関(不適正利用対策機関)を設置することが必要かつ有効であるよう思われる。同時に、従来からある第三者機関(例えば、著作権協会)、行政機関(例えば、女性少年室)等の、より一層のインターネットへの対応が必要になってくるであろう。


(注)

56 牧野二郎「インターネットプロバイダの法的責任論」インターネット法学二〇九頁。

57 郵政省が想定している「不適正利用対策機関」は、インターネット上の不適正利用の被害者に発信者の情報を開示する制度として考えられている。 「電気通信事業者等とは別に、公正・中立な「不適正利用対策機関」を設け、適正な手続により被害者に発信者を開示する制度を検討。 開示の要件として、発信者がその氏名・住所等本人を特定する情報を明らかにせずに、例えば、次のような行為により他人の権利利益を侵害した場合を想定。  反復継続した迷惑電話、大量の迷惑メール  他人のプライバシーをその者の許諾なく電子掲示板などに置く行為

他人の名誉を毀損する事項を電子掲示板などに置く行為  他人を侮辱する事項を電子掲示板などに置く行為」「郵政省意見募集」(前掲注23

   

[7]マルチメディアとインターネットの変容 まとめに代えて

情報の伝達経路が通信回線であっても、デジタル化とそれによって引き起こされたマルチメディア化により、従来通信回線で予定していなかった内容・デジタルコンテンツが、さらにまた、従来、通信回線で予定されていなかった形態でやりとりされるようになった。「マルチメディア」の本質は、デジタル化によるメディアの融合にある。すなわち、画像、音声、音楽、動画、さらには、電子マネーの形での金銭的価値といった、従来では考えられなかった情報がコンピュータで扱われるようになり、インターネット等のネットワークで瞬時にやりとりされるようになることにある。コンテンツプロバイダは、郵便局、放送局、テレビ局、電話局、銀行、証券会社になる、あるいは、郵便局、放送局、テレビ局、電話局、銀行、証券会社自身がコンテンツプロバイダ、さらにコマースサーヴァープロバイダになる時代になっている。そうなると、インターネット自身は、特殊な通信メディアではなく、社会のインフラとなる。

研究機関、官庁等、通信事業法の対象外のインターラクティブサービスプロバイダ全体を視野に入れ、ネットワーク全体を大きく規制することがまず必要である。この点で、アメリカの通信品位法230条、ドイツのテレサービス法、メディアサービス法の五条が参考になるであろう。

また、一つのプロバイダが、複数のサービスを提供している以上、プロバイダの類型化だけではなく、プロバイダの個々の機能ないしサービスに着目した、機能ないしサービスごとのより細かい個別の検討が必要となっていると思われる。

残された課題はあまりにも多く、インターネットの変化はそれ以上に早いと嘆息している。




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