法務省会見・内容報告


前書き

 我が弁護士協議会では、10月8日法務大臣から法制審議会にたいして、諮問第42号として組織的犯罪に関する実体法、手続き法上の問題の諮問がなされ、特にその中で、令状による通信の傍受を行う事があげられている事から、この法案作成の議論の重要性を認識しました。

 そこで、10月17日「インターネット法規制にたいする声明文」を代表者名で作成し、公表するとともに、法務省に送付し、当該法案作成作業の公開と、インターネト専門家の参画とを求め、法務省の基本的な見解を問いただす作業に取り掛かりました。

 法務省は、当該法制度の整備に関する諮問、審議内容については、原則として公開、公表の方向を取ると言う基本姿勢をもっているとの事から、上記声明文の質問事項に対して回答を返送してくれましたがその内容も公表済みです。また当弁護士協議会との会談にたいしても前向きの方向を示したことから、関係者のご尽力により今回の会談が実現しました

 今回の会談の内容は、最初と言う事もあり、われわれが質問をして回答していただくと言う形式で、進めました。法務省からは、「試案」「事務当局説明要旨」の公表が進められていましたが、その公表の直前の会談であったため、われわれの質問が必ずしも深めたものとならなかった感があり、大変残念です。
 さらに、問題点や、疑問点を明らかにして、国民のきちんとした議論を進めたいと思っています。

 この会談録は、関係者全員の確認を取ったもので、公表を承認されたものです。公表に際しては、国民の議論の参考にする目的ですから、内容の改変をしない事を前提に、転載・配布は自由と致します。ご活用ください。

 みなさんのご意見、ご批判、疑問点など、どしどしお寄せ下さい。

1997年1月9日

インターネット弁護士協議会
代 表 牧 野 二 郎   


法務省会見 内容報告

 1996年12月10日 法務省
 法務省 古田佑紀法務大臣官房審議官 刑事局担当
 東京弁護士会 副会長 中根洋一弁護士
 インターネット弁護士協議会 代表 牧野二郎、同副代表 清見勝利、
               速水幹由、寺中 誠、半田晴彦 
 

1 前提

 現在の段階では法案はできていないので誤解しないで欲しい。現在あるのは法制審の審議のためのたたき台であって、無責任に答申を作ってくれと言うのではなく、審議の土台は責任を持って提出すると言うこと。法案は、審議会の答申、審議内容に基づいて作成することとなる。
 法案が二つあると言うのは、不正確である。

 インターネットそのものを規制の対象とすることを目的にしていると言うわけではない。むしろ電話と言う通信を中心にしており、電気通信ということから、インターネットの中の一部分が含まれると言うことに過ぎない。インターネットを規制の対象としていると理解するのは正確ではない。インターネットはようやく骨格が見えてきたころなので、刑事法だけではなく民事法に関しても、検討を始めているという段階。


2 「試案」の公開がなされていないのではないか。

内閣の決定では公開とあるが、法制審議会はそれに反して、審議内容は非公開と決定したようだが、おかしいのではないか。

 法制審議会の議事内容はその要旨を公開することとされている。事務手続き上、若干の時間はかかるが順次公開していく。現在、試案は、ジュリストでも公表を予定しているのでそれも参考にして欲しい。


3 法案の成立時期

来年3月までに法案を作る、1月までしか実質審議期間がないと聞いているが、それでは審議会も国民にも審議の機会がないのではないか。

 何時までにとはっきり決めるのは審議会に対して失礼なので、できるだけ早くと言う趣旨でお願いしている。3月までといった期限は定めていない。


4 法案の公表方法、インターネットでの公表も予定されているようだが。

 インターネットによる公表ということに慣れていない、どのように位置づけるか、ホームページをどのように活用するのかと言う検討をしつつある。現在までは法律雑誌に公表と言う方法を取ってきた。インターネットでは雑誌以上に広く一般の方に公開と言うことで、一般市民から様々な質問が出るように思われる。対面式ではなく、バックグラウンドもわからないため疑問を正しく把握して、的確に答えられるか、たくさんになった時答えきれるか、どのような回答方法が良いのか、できるのか、研究中である。

 ジュリストでの公表は、「試案」と「説明要旨」を一緒にして、位置づけが正確に理解できるように、コメントを付している。「試案」が一人歩きするのはいけないので、正確に理解されるように公表したいと思っている。


5 盗聴・傍受の必要性について、どのような必要性があるのか、弊害がないのかといった議論をしているのか、「試案」は犯罪の対象範囲を広範に捉えていると解されるのだが。

 これまでの捜査方法では捜査が困難な状況が一部に出ている。
 これまでの検討から加えたものは人質強要・逮捕監禁・その致傷の3つのみ。それ以上に広げてはいない。
 アメリカの傍受の実例、運用については「ワイアータップレポート」という公式なものがあるので、それをもとに検討をしている。これがオフィシャルなものと理解している。

  許可 実施 傍受した通信の平均 有罪を示す通信の割合の平均
94年 1154件 1100 2139 17%
95年 1058件 1024 2028 23%

 実際は麻薬取り引きが中心で、傍受した通信の平均数は、関係ないとして途中で止めたものもすべて含んだ数字である。

令状の明確な、限定されたはずの薬物関係でも80%程度の関係ない会話が入ると言うことだが。

 確かにそうである。しかし、4〜5通話に1通話というのはかなり多いといえるのではないか。


6 許可状の明確化

 アメリカでは令状記載は厳格であるが、「試案」では、被疑者氏名がわからなくても良いと言うように、かなり広範あいまいだが。

 アメリカの内容と同じです。従前から変化していない。
 電話の傍受で重要なのは、被疑者の特定よりも、むしろ対象とする電話の特定だと思います。連絡用に利用している、犯罪に利用している電話・通信設備の特定がなければ令状は出ない。


7 計画性と言う概念をはずしているが、なぜか。

 計画性と言うのは概念的に規定するのが困難。疎明の範囲など問題がある。
 通信傍受における制限は、犯罪があって、その実行に関連する通信が行われ、しかもそれがある特定の電話などによる蓋然性と言う点と、補充性の観点がある。他に手段がないと言うことである。

アメリカの法律では、他に方法がなく、仮にあってもその方法は危険過ぎる、と言った縛りをかけているが、「試案」にはそうした縛りがないのではないか。

 いや、アメリカの規定と同様である。ジュリストの解説でもその点は触れている。


8 傍受対象者への通知はどのような範囲で行われるのか、その範囲がかなり限定され、通知されない範囲が広すぎるのではないか。

 傍受の方法には関連性の有無を確かめ、関連性が認められない通話は傍受を中止するアメリカ型と全部録音して関連性があると認められるものだけ書面化するドイツなどのやり方がある。試案ではアメリカ型をとり、関連性のない傍受については途中で止める事にする。ただ、こうして取ったものすべてを証拠にする(アメリカ型)か、関連性の有無の判断のために傍受したものはすべて排除して関連性があるものに限って捜査機関が持つ事ができるが、それ以外はもてないとする、二つの考えがあるが、試案ではより徹底して後者の方を取った。傍受の全部を裁判所に保管してもらって、裁判所にいけば処分の当事者がどのような傍受をなされたか確認できるようにする。 こうした関連性の判断に関するだけの傍受内容は、刑事手続きには一切使えないとした。実際にはテープを2本同時にまわす。1本をその場で封印して裁判所に保管してもらう、もう一本から関連性の無い物を削除して、刑事手続きに利用する記録物を作ることになると考えている。

 電話の設置者に対する通知は考えていない。しかし、この機器については、こうした傍受がなされたと言う、インデックスのようなものを作って、他の会話とは区別して、検討できるようにしたい。


9 傍受された人のうち、関係のない80%の人のプライバシーが大切なのであり、その人のプライバシー保護の規定は、方法は、通知は。

 まず、会話の80%に関しては、直接関係ないものがあるということはそうだが、質問の、80%の人という意味ではない。会話の内容の80%ということだ。
 直接関係のないものを聞くが、途中で止めるという意味は、通常の令状による捜索の際に、押収の必要性を判断するためにその場所にある物を見ざるを得ない、その上で、必要なものを押収する、それと基本的に同じと考えている。
 部分的に聞いても、刑事手続きで使うものには残さないのであるから、捜索、押収の場合以上の問題は生じないと考える。いわば押収しないのであるから、通知の必要もないと思う。
 郵便物については、現行法上、開封しないで差し押さえをして、その後開封して、関連性がないと言うのであれば、返還すると言うことになる。内容を確かめることができる点、関連性がないものは残さないという点では同じだが、郵便物の場合は全体を差し押さえることができ、しかも内容を全部見ることができるのに対して、試案の傍受は部分的に聞いて、関連性が認められないものは、それ以上は聞けないこことしており、より保護を篤くしてある。
 被疑者不詳であっても、犯罪関連性が疎明されれば、差押が可能です。
 ヨーロッパの考え方は郵便と似たものとして考えている。

アメリカ型のすべて録音して、基本的にすべて通知すると言う方が、プライバシー保護の観点から優れているのではないか。可視性、透明性という担保が必要なのではないか。傍受されたものが自分が傍受されたと言うことがわからなければ意味がない、その制度的保証は。

 捜査側の資料ではどのようなことがあったかという報告、裁判所に原本がいくので、捜査の適正化ははかれる。
 捜査の報告の内容はどのようにするかは、検討中である。
 裁判所の原本へのアクセスは、正当な理由がある時、と言うこと、現実には傍受されたものからの傍受内容の確認の場合にそれができる様にということ、また、刑事手続きに利用された時、そしてそれが改ざんされたと疑われる場合の照合ができるためなどです。

立件できないもの、立件しないものは通知の対象にならないと言うことになるのではないか。

 傍受の要件は、犯罪があったことに加えて、それがある犯罪の実質的な一部であるならば引き続き犯罪の行われる蓋然性のある場合と言うことで、一たん傍受した場合は原則として立件され、捜査資料はすべて検察官に送付されることになっている。
 傍受をしておきながら警察限りで握り潰すと言うことはありません。そういう制度ではない。

傍受の結果、犯罪性がないと言う場合、誰にも通知しないのか。

 犯罪性がないときは、刑事事件とはならないので、もともと傍受の要件はない。犯罪の十分な嫌疑があって傍受したが、犯罪の疑いが解消した場合でも、捜査したのだから送致はしなければならない。もっとも、犯罪の実行に関連する通信がない場合があればそのときは刑事手続き中には傍受の結果は残らないので、通知はされないこととなる。

すると、聞かれたものは聞かれたことも知らない、聞いた事自体誰にも通知されないではプライバシーが侵害されているのにおかしいではないか。

 聞いた部分は関連性の判断だけだから、侵害の程度が少ない。
 捜索の際の内容確認と大きな差はない。

程度の問題ではない。プライバシーとは、開披されたかされないかの問題だ。少しだから良いだろうと言う問題ではない。
 何も示されない、いつ聞かれているか、何を聞かれているか、まったくわからない。
いつ、何が聞かれるのか、明らかでない国家は危険だ。

 それは極論である。自由にやることを認めるのではなく、令状によって、適正に規制をしている。

何をいつ、聞かれたのかは通知して、なんら問題はないのではないか。

 一つの論点で、詳細は法制審で、議論、検討されると思う。


10 メールの盗聴の問題、及び暗号問題

 メールの盗聴のシステムはどのように考えているのか。

 メールのシステムはパケット通信なので、一番現実的な方法としては、メールサーバーに到達した時点で、そこでの傍受と言うことになる。

 蓄積型の場合、蓄積されたものの捜索差押で可能ではないかの問題はあるが、ファイルは大変破壊され易く、読まれると破棄されると言うものでもあるので、リアルタイムで読む必要が出てくる。
 暗号化の話しになると、暗号化されたものを傍受した時にどう対応かするかの問題はOECDを中心に検討しているが、今後の重要問題として広い角度で、考えている。
これから先のテクノロジーの問題は、一国だけでは駄目な時代になるであろう。そのための議論をしている状況である。

 傍受すると、暗号化へ走ると言う指摘は、同意しかねる。犯罪者は、傍受するかに関わらず、暗号化する時はするのであって、傍受には関わらないと見るべきだ。特に国際間の通信では傍受ができない国はほとんどないので、日本が傍受を導入するかどうかが影響するとはおもえない。犯罪が通信を媒介にして国際化しているので、外国の犯罪文化を持った人たちがいろいろな形で入ってきて、対応できない状況が出てきている。


11 メールを傍受する必要性とは何か、プロの犯罪者は暗号を使うと言うのであれば傍受の対象はプロの犯罪者ではなく、一般市民と言うことになりはしないか。

 メールも対象に入ると言うのは、インターネットやメールを中心的に規制の対象に置くと言うことではなく、電話などの通信を対象とすることからメールも対象にはいってくることがあると言うものである。
 現に、メールでやり取りしていると言った事例に対して対処できないと言うのはいけない。


12 憲法上の原則と、例外規定との関係

 憲法による通信の秘密の保護を前提に、電気通信事業法の規定などがあり、これが原則規定であって、それに対する例外規定として、この法律を作ると言う立場なので、この法律には原則規定を置くことは考えにくい。
 アメリカの法律は、アメリカ憲法などに原則禁止規定がなく、なおかつ傍受が横行していたので、一方では口頭会話の傍受を含めて一定限度で傍受を認めることとし、それ以外の傍受を禁止すると言う立場で、原則規定として禁止という明文を置く必要があったものである。日本とは違う。

日本でも、現実には口頭傍受、日常生活の盗聴行為が横行している。その規制の必要もあるのではないか。この時点で、盗聴法として、原則を明確にすると言う方法もあるのではないか。

 今回の試案では口頭会話の傍受は含まれていないので、米国のような一般禁止規定はなじまない。私人によるものも含め、一般的な盗聴は問題だと思うが必ずしも規制せよという声が上がらない。今後検討すべき問題だと思う。


13 公務員職権濫用罪、懲戒といった行き過ぎた盗聴行為に対する懲罰の明記が必要なのではないか。

 他の強制捜査方法と特別に区別するまでの必要があるか疑問がある。他の方法と同様に規制すれば足りる。令状による傍受が、捜索・差押などと比較して、懲戒等との関係で、特別と言う考え方はいかがなものか。


14 この「試案」は、組織的犯罪に対する共犯概念の部分、法定刑の部分と言った刑事法そのものの部分と、盗聴と言う刑事手続き、刑事訴訟法的な部分とが一緒になっており、単純な抱き合わせで、たいへんわかりづらいと思われるが。

 この「試案」は、必要なメニューと言う意味もあって、必要性の高い事項を集めたと言う意味で、分かりづらい部分もある。立法形式も含めて、審議会でさらに検討していただくことになる。内容が、別々に議論されて、それぞれが独立のものとなる可能性もある。

以上

 本記録は、当日の会話のメモを基礎にして、関係当事者の確認をお願いして、その要旨を再現したものです。


いわゆる盗聴法案の概要

法務省刑事局検討案(いわゆる盗聴法案)抜粋

組織的犯罪刑事法整備参考試案全文及び事務当局説明要旨

法務省回答1

代表声明文2・法務省に対する質問書

いわゆる盗聴法案に関する議論経過

盗聴法案についての清見勝利会員の見解