組織的犯罪刑事法整備参考試案
及び事務当局説明要旨



組組織的な犯罪に対処するための刑事法整備に関する法制審議会への諮問

 一 諮問の背景

 近年、暴力団等による薬物、銃器等の取引やこれらの組織の不正な権益の獲得・維持を目的とした各種の犯罪のほか、いわゆるオウム真理教事件のような 大規模な組織的な凶悪事犯、会社などの法人組織を利用した悪徳商法等の大型経済犯罪など、組織的な犯罪が平穏な市民生活を脅かすとともに、健全な社会経済の維持、発展に悪影響を及ぽしかねない状況にある。

 また、こうした組織的な犯罪又ほ国際的な犯罪組織の問題は、国際社会においても、各国の社会の安定や経済の維持、発展に悪影響を及ばすことが懸念されており、最近における先進国首脳会議や国際連合等の会議においても、最も重要な課題の一つとして継続的に取り上げられ、犯罪収益の規制措置をはじめとして、国際的にも協調した対応が強く求められているところであり、主要国においても、これに関する法制度の整備が進んでいる。

 二 経過等

 こうした組織的な犯罪に適切に対処するため、刑事の実体法及び手続法の分野につき、当面、緊急に対応する必要があると思われる各種の事項に関し、平成八年一〇月八日、法務大臣から法制審議会に対し、必要な法整備を図るための整備要綱の骨子を示すことを求める諮問がなされた。

 同審議会においては、刑事法部会でまず審議をすることとされ、現在、同部会において、審議が行われている。

 同部会の審議の中で、その審議のたたき台の意味で、事務当局に対し、法整備要綱骨子に関する参考試案を提出することが求められ、同年一一月一一日の同部会において、組織的な犯罪に対処するための刑事法整備に関する事務局参考試案が提出された。

(法務省刑事局刑事法制課)


諮問第四十二号

 最近における組織的な犯罪の実情にかんがみ、早急に、この種の犯罪に対処するため刑事の実体法及び手続法を整備する必要があると思われるので、別紙の事項に関して、その整備要綱の骨子を示されたい。

 別 紙

第一 組織的な犯罪に関する刑の加重等

 一 一定の組織的な犯罪の刑の加重

 犯罪実行のための組織を作り又は団体の不正な権益に関連して犯した犯罪(以下「組織的な犯罪」という。)に該当する一定の罪(例えば、賭博開帳図利、殺人、逮捕監禁、強要、詐欺、恐喝等)につき、その刑を加重すること。

 二 組織的な犯罪に係る犯人蔵匿等の刑の加重

 組織的な犯罪に係る犯人蔵匿等、証拠隠滅等及び証人等威迫の罪につき、その刑を加重すること。

 三 予備罪の刑の加重及び新設

 組織的な犯罪に該当する殺人の罪につき予備罪の刑を加重し、組織的な犯罪に該当する営利目的等略取及び誘拐の罪につき予備罪を設けること。

第二 犯罪収益等による事業経営の支配等の処罰

 一定の罪(例えば、財産上の不正な利益を得る目的で犯した死刑又は無期若しくは長期五年以上の懲役に当たる罪及び懲役以上の刑に当たる罪であって多額の財産上の不正な利益を生ずることが多いもの)の犯罪行為により得た財産等を犯罪収益等とし、これについて、次の行為を処罰すること。

 1 犯罪収益等の出資、貸付け等による影響力を利用して、法人等の事業経営を支配し、又はこれに干渉する行為及び法人等の事業経営を支配し、又はこれに干渉する目的で犯罪収益等の出資、貸付け等をする行為

 2 犯罪収益等を隠匿する行為及びこれを収受する行為

第三 没収及び追徴の拡大

 一 犯罪収益等の没収及び追徴

 犯罪収益等については、その没収の対象を金銭債権に拡大し、その他その没収及び追徴の制度を整備すること。

 二 犯行供用物件等の没収

 法人等の構成員が法人等の物を組織的な犯罪の犯罪行為の用に供した場合等に、その没収を可能にすること。

第四 令状による通信の傍受

 一定の罪(例えば、死刑、無期懲役又は無期禁錮に当たる罪、薬物又は銃器に関する罪、略取及び誘拐の罪等)の捜査に関し、裁判官の発する令状により、犯罪の実行に関連して行われる電話その他の電気通信を傍受する制度を設けること。

第五 証人等の保護

 証拠の閲覧及び証人尋問に際して、証人等の氏名、住居等、その特定に関する事項の取扱いにつき、証人等の安全に配慮する措置を講じること。

第六 没収に関する手続等

 第三の一の没収の範囲の拡大に伴い、必要な手続等を整備すること。


組織的な犯罪に対処するための刑事法整備要綱骨子に関する事務局参考試案

第一 組織的な犯罪に関する刑の加重等

 一 一定の組織的な犯罪の刑の加重

 1 別表1上欄に掲げる罪であって次のいずれかに該当するものを犯した者は、それぞれ同表下欄に掲げる刑に処するものとすること。ただし、(3)に関しては、刑法第一八六条第一項(常習賭博)、同条第二項(賭博開帳等図利)及び第二四六条(詐欺)の罪を除くものとすること。

 (1) 犯罪を実行するための法人その他の団体(以下単に「団体」という。)を作り、実行したもの

 (2) 団体の活動として犯罪を実行するため、その内部に組織を作り、又は団体若しくはその一部を構成する組織をそのための組織とし、実行したもの

 (3) 団体に不正な権益を得させ、又は団体の不正な権益を維持し若しくは拡大する目的をもって、実行したもの

 2 未遂

 別表1上覧に掲げる罪につきその未遂を罰する旨定められているときは、1の罪につき、その未遂を罰するものとすること。

 3 身の代金目的略取等における解放減軽規定の適用

 刑法第二二八条の二の規定は、刑法第二二五条の二の罪に係る1の罪に適用があるものとすること。

 二 犯人蔵匿罪等の刑の加重

 禁錮以上の刑に当たる罪であって一1(1)ないし(3)に該当するものに関し、別表2上欄に掲げる罪を犯した者は、それぞれ同表下欄に掲げる刑に処するものとすること。

 三 予備罪の刑の加重及び新設

 1 別表3上欄に掲げる罪であって一1(1)ないし(3)に該当するものを犯す目的でその予備をした者は、それぞれ同表下欄に掲げる刑に処するものとすること。

 2 1の予備をした者について、実行着手前の自首に対する裁量的な刑の減免規定を設けるものとすること。

 第二 犯罪収益等によるす事業経営の支配等の処罰

 一 犯罪収益等

 1 「犯罪収益」とは、次に掲げる財産をいうものとすること。

 (1) 財産上の不正な利益を得る目的で犯した死刑若しくほ無期若しくは長期五年以上の懲役に当たる罪(二の罪及び三の犯罪収益等の隠匿の罪並びに国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(以下「麻薬特例法」という。)第九条の罪を除く。)若しくは別表4に掲げる罪の犯罪行為により得た財産又は当該犯罪行為の報酬として得た財産(麻薬特例法に規定する不法収益に該当する財産を除く。)

 (2) 次に掲げる罪に係る資金

 ア 売春防止法第一三条の罪

 イ 銃砲刀剣類所持等取締法第三一条の一三の罪

 ウ サリン等による人身被害の防止に関する法律第七条の罪

 2 「犯罪収益に由来する財産」とは、犯罪収益の果実として得た財産、犯罪収益の対価として得た財産、これらの財産の対価として得た財産その他犯罪収益の保有又は処分に基づき得た財産をいうものとすること。

 3 「犯罪収益等」とは、犯罪収益、犯罪収益に由来する財産又はこれらの財産とこれらの財産以外の財産とが混和した財産(麻薬特例法に規定する不法収益等(以下「不法収益等」という。)に該当する財産を除く。)をいうものとすること。

 二 犯罪収益等による事業経営の支配等の処罰

 犯罪収益等(一1(1)に係る犯罪収益等に限る。以下この項において同じ。)若しくは不法収益等(麻薬特例法第二条第三項に規定する資金以外の不法収益に係る不法収益等に限る。以下この項において同じ。)を法人その他の社団若しくは財団(以下「法人等」という。)に出資し、犯罪収益等若しくは不法収益等により法人等の株式若しくは持分若しくは法人等に対する債権を譲り受け、又はこれらを法人等若しくはその株主その他の出資者若しくは取締役、理事その他の役員(その事業経営を実質的に行っている者を含む。)に供与し、貸し付け、若しくは寄託した者が、当該出資等による影響力を利用して、法人等の事業経営を支配し、又はこれに干渉したときほ、五年以下の懲役若しくは一、〇〇〇万円以下の罰金に処し、又はこれを併科するものとすること。

 法人等の事業経営を支配し、又はこれに干渉する目的で、犯罪収益等若しくは不法収益等を法人等に出資し、犯罪収益等若しくは不法収益等により法人等の株式若しくは持分若しくほ法人等に対する債権を譲り受け、又はこれらを法人等若しくはその株主その他の出資者若しくは取締役、理事その他の役員(その事業経営を実質的に行っている者を含む。)に供与し、貸し付け、若しくは寄託した者も、同様に処罰するものとすること。

 三 犯罪収益等の隠匿及び収受の処罰

 犯罪収益等の隠匿及び収受について、麻薬特例法第九条及び第一〇条と同様の処罰規定を設けるものとすること。

 四 国外において行われた行為による犯罪収益等、国外犯及び両罰規定

 1 二及び三については、日本国外において行われた行為であって当該行為の行為地の法令により犯罪に当たるものに関し犯罪収益等に相当するものについても、これを適用するものとすること。

 2 二及び三の罪は、刑法第三条の例に従うものとすること。

 3 二及び三の罪に関し、両罰規定を設けるものとすること。

 第三 没収及び追徴の拡大

 一 犯罪収益等の没収及び追徴

 1 次に掲げる財産が物又は金銭債権であるときは、当該犯罪につき没収に関する特別の規定がある場合を除き、没収することができるものとすること。ただし、当該財産が財産に対する犯罪の犯罪行為により得た財産その他犯罪の害を受けた者から当該犯罪行為により得た財産に係るものであるときは、この限りでないものとすること。

 (1) 犯罪収益

 (2) 犯罪収益に由来する財産

 (3) 第二の二又は三の罪に係る犯罪収益等又は不法収益等

 (4) 第二の二又は三の罪の犯罪行為により生じ、若しくは当該犯罪行為により得た財産又は当該犯罪行為の報酬として得た財産

 (5) (3)又は(4)の財産の果実として得た財産、(3)又は(4)の財産の対価として得た財産、これらの財産の対価として得た財産その他(3)又は(4)の財産の保有又は処分に基づき得た財産

 2 1の財産を没収することができないとき(当該財産が物又は金銭債権でないため没収することができない場合を含み、1ただし書により没収することができない場合を除く。)、又は当該財産の性質、その使用の状況、当該財産に関する犯人以外の者の権利の有無その他の事情からこれを没収することが相当でないと認められるときは、その価額を犯人から追徴することができるものとすること。

 3 1による財産の没収に係る混和財産の措置及び犯人以外の者の権利が存在する場合の措置については、麻薬特例法第一五条及び第一六条と同様の規定を設けるものとすること。

 二 犯行供用物件等の没収

 団体の構成員が第一の一1(1)ないし(3)に該当する犯罪又はこれらの犯罪を目的とした予備罪を犯した場合において、犯罪行為を組成し又は犯罪行為の用に供し若しくは供しようとした物が団体の財産であって、当該構成員が管理するものであるときは、これを没収することができるものとすること。ただし、当該団体において、これについて防止に必要な措置を講じていたときは、この限りでないものとすること。

第四 令状による通信の傍受

 一 令状による傍受

 1 令状による傍受の要件等

 (1) 検察官又は司法警察員は、次の各号のいずれかに該当する場合において、犯人により犯罪を実行し又は実行することに関連する通信(電話又はファクシミリによる通信、コンピュータ通信その他の電気通信であって、その全部又は一部が有線によって行われるものをいう。以下同じ。)が行われると疑うに足りる状況があり、かつ、犯人を特定し又は犯行の状況若しくは内容を明らかにするため他に適当な方法がないと認められるときは、通信当事者のいずれの同意もない場合であっても、裁判官の発する令状により、犯罪を実行し又は実行することに関連すると思料される通信を傍受することができるものとすること。

 ア 死刑、無期懲役若しくは無期禁錮の定めのある罪又は別表5に掲げる罪が犯されたと疑うに足りる充分な理由がある場合において、当該犯罪が数人の共謀によるものであると疑うに足りる状況があるとき

 イ アに記載する犯罪が行われ、かつ、更に継続して行われると疑うに足りる充分な理由がある場合において、数人の共謀によるものであると疑うに足りる状況があるとき

 ウ ある犯罪がアに記載する犯罪の実行のために必要な行為として行われ、当該アに記載する犯罪が行われると疑うに足りる充分な理由がある場合において、当該アに記載する犯罪が数人の共謀によるものであると疑うに足りる状況があるとき

 (2) (1)の適用については、別表5に掲げる罪であって、譲渡L、譲受け、貸付け、借受け又は交付(以下「譲渡し等」という。)に係るものにおける譲渡者と譲受者、貸付者と借受者又は交付者と受交付者の間の当該譲渡し等に係る約束は、(1)の共謀に該当するものとすること。

 (3) (1)の傍受は、被疑者が設置し若しくは使用している電話その他の通信設備その他傍受の対象となる犯罪の実行に関連する通信が行われると疑うに足りる通信設備につき行うことができるものとすること。

 (4) 傍受令状は、検察官(一定の範囲に限る。)又は司法警察員(一定の範囲に限る。)の請求により、地方裁判所の裁判官が、傍受ができる期間として一〇日以内の期間を定めて、これを発するものとすること。

 ただし、急速を要し、地方裁判所の裁判官の令状を得ることができないときほ、簡易裁判所の裁判官の発する令状により傍受することができるものとすること。この場合においてほ、簡易裁判所の裁判官は、傍受ができる期間として三日以内の期間を定めて、令状を発するものとすること。

 簡易裁判所の裁判官の発した傍受令状の有効期間は、一日とすること。

 (5) 裁判官は、通信の傍受に関し、適当と認める条件を付することができるものとすること。

 2 傍受令状の記載事項

 (1) 傍受令状には、被疑者の氏名、罪名、傍受すべき通信、その通信が行われる電話の番号その他傍受の対象とすべき通信設備を特定するに足りる事項、傍受の方法及び場所、傍受ができる期間、通信の傍受に関する条件、有効期間及びその期間経過後は傍受令状による通信状況の見分(傍受のための機器を準備し又は設置して、通信が行われた場合に直ちに傍受することができる状態で、傍受の対象とする通信設備において傍受すべき通信が行われるか否かを見分することをいう。以下同じ。)に着手することができず令状はこれを返還しなければならない旨並びに発付の年月日その他最高裁判所の規則で定める事項を記載し、裁判官が、これに記名押印しなければならないものとすること。

 (2) 被凝者の氏名が明らかでないときは、その旨を記載すれば足りるものとすること。

 3 傍受ができる期間の延長等

 地方裁判所の裁判官は、必要があると認めるときは、検察官又は司法警察員の請求により、一〇日以内の期間を定めて傍受ができる期間を延長することができるものとし、傍受ができる期間は、通じて三〇日を超えることができないものとすること。

 4 傍受令状の再請求

 裁判官は、同一の犯罪事実に関し同一の通借設備について前に傍受が行われた場合において、更に傍受を行うことを必要とする特別の事情があると認めるときは、検察官又ほ司法警察員の請求により、再度傍受令状を発することができるものとすること。

 二 傍受の実施等

 1 令状の呈示

 傍受令状は、通信回線の傍受を行う部分を管理する通信事業者若しくは通信事業者以外の者であって業務のために電気通信に係る交換設備のある通信設備を設置するもの(以下「通信事業者等」という。)若しくはその役職員又はこれらの者に代わるべき者に示さなければならないものとすること。傍受ができる期間が延長されたときも、同様とするものとすること。

 2 必要な処分等

 通信の傍受については、傍受のための機器の設置又は操作その他必要な処分をすることができるものとすること。ただL、通信事業者等の管理に係る場所で傍受を行う場合(傍受のための機器を設置する場合を含む。)を除き、人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内に、住居主若しくは看守者又はこれらの者に代わるべき者の承諾なく立ち入ることはできないものとすること。

 3 通信事業者等の協力義務

 検察官又ほ司法警察員は、通信事業者等に対して、通信の傍受に関し、必要な協力を求めることができるものとすること。この場合において、通信事業者等は、正当な理由なくこれを拒んではならないものとすること。

 4 立会い

 傍受令状により通信状況の見分をするときは、通信回線の傍受を行う部分を管理する通信事業者等若しくはその役職員又はこれらの者に代わるべき者を立ち会わせなければならないものとすること。

 これらの者を立ち会わせることができないときは、地方公共団体の職員を立ち会わせなければならないものとすること。

 この場合において、見分の期間が長期にわたり立会人に常時立会いを求めることができないときは、立会人が傍受を行う場所に現にいない場合であっても、傍受を行うことができるものとすること。

 ただし、通信状況の見分の開始時及び終了時並びに傍受した通信を記録する媒体の交換時には立会人を立ち会わせなければならないものとすること。

 5 該当性判断のための傍受

 (1) 傍受すべき通信として令状に記載されたものに該当するか否か明らかでないときは、これに該当するか否かを判断するために必要な範囲でその通信を傍受することができるものとすること。

 (2) 外国語又は暗号による通信であって、傍受を実施する者が、傍受の時に、その内容を知ることが困難なものは、その全体を記録することができるものとすること。この場合においては、速やかに、犯罪を実行し又は実行することに関連する通信であるか否かを確認しなければならないものとすること。

 6 業務上の秘密の保護

 医師、歯科医師、助産婦、看護婦、弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、弁理士、公証人又は宗教の職に在る者(傍受令状に被疑者として記載されている者を除く。)との間の通信であって、その業務に関するものは傍受してはならないものとすること。

 7 他の犯罪に関する通信

 傍受令状により傍受をしているときに、その傍受に係る犯罪以外の犯罪を実行し又は実行することに係るものと明らかに認められる通信が行われた場合には、これを傍受することができるものとすること。

 8 相手方の通信設備を特定する事項の探知

 通信状況の見分をしている間に行われた通信につき、その相手方の電話番号その他通信設備を特定する事項を探知するには、別に令状を必要としないものとすること。

 9 傍受令状による通信状況の見分の終了

 傍受令状により通信状況の見分を行っている者は、傍受の理由又は傍受の必要がなくなったときは、見分を終了しなければならないものとすること。

 10 終了時に通信が行われている場合の見分の継続

 傍受令状によ通信状況の見分を終了すべき時に現に通信が行われているときは、当該通信が終了するまで通信状況の見分を継続することができるものとすること。

 11 実施状況を記載した書面の提出

 傍受令状により通信状況の見分を行った者は、傍受ができる期間の延長を請求する時及び傍受ができる期間の満了後又は10による通信状況の見分の終了後速やかに、傍受の実施状況を記載した書面を、傍受令状を発付した裁判官が所属する裁判所の裁判官(簡易裁判所の裁判官が傍受令状を発付した場合には、管轄地方裁判所の裁判官)に提出しなければならないものとすること。

 12 記録の封印・保管等

 (1) 傍受した通信は、すべて、録音その他通信の性質に応じて適切な方法により記録するものとすること。

 (2) 傍受した通信を記録した物(以下「傍受記録」という。)は、通信状況の見分の終了後(見分中に記録媒体の交換があった場合には、記録媒体の交換後)、速やかに、立会人にその封印を求めなければならないものとすること。

 (3) 検察官又は司法響察員は、傍受記録の複製物から、傍受すべき通信として令状に記載されたもの又は7により傍受したものを含む通信以外の通信を削除し、これを刑事手続に使用する傍受記録とするものとすること。

 (4) 立会人が封印した傍受記録は、保管用原本として、傍受令状を発付した裁判官が所属する裁判所の裁判官(簡易裁判所の裁判官が傍受令状を発付した場合には、管轄地方裁判所の裁判官)に提出し、その裁判官においてこれを保管するものとすること。

 (5) 原本の保管について必要な事項は、この法律に定めるもののほか、最高裁判所が定めるものとすること。

 三 事後措置等

 1 通知

 (1) 傍受令状による傍受を行った者は、刑事手続に使用する傍受記録に記録されている通信の当事者の一方に対し、令状発付の事実、その日付、令状記載の罪名、傍受令状による通信状況の見分を行った期間、傍受の対象とした通信設備並びに傍受した通信の日時及び他の当事者を通知しなければならないものとすること。ただし、当事者が特定できず又はその所在が明らかでないときは、この限りではないものとすること。

 (2) 通知は、傍受令状による通信状況の見分の終了後三〇日以内にこれを行わなければならないものとすること。ただし、裁判官は、通知によって捜査が妨げられるおそれがあると認めるときは、通知を行うべき者の請求により、この期間を延長することができるものとすること。

 (3) 通信の当事者は、(1)の通知があった後、刑事手続に使用する傍受記録のうち自己の通信に係る部分を閲覧し又は聴取することができるものとすること。

 2 保管用原本の聴取・閲覧等

 裁判官は、検察官、司法警察員、刑事手続に使用する傍受記録若しくはその内容を記載した書面が証拠として請求されている事件の被告人、弁護人又は傍受された通信の当事者の請求があった場合において、正当な理由があると認めるときは、必要と認める範囲で、保管用原本を聴取若しくは閲覧させ又はその複製物を作成させることができるものとすること。

 3 裁判に関する不服申立て

 裁判官が通信の傍受に関する裁判をした場合において、不服がある者は、刑事訴訟法第四二九条と同様に、その裁判をした裁判官が所属する裁判所(簡易裁判所の裁判官がした裁判に対しては管轄地方裁判所)に、その裁判の取消し又は変更を請求することができるものとすること。

 4 処分に関する不服申立て

 (1) 検察官又は検察事務官のした傍受に関する処分に不服がある者は、刑事訴訟法第四三〇条と同様に、その検察官又は検察事務官の所属する検察庁の対応する裁判所に、その処分の取消し若しくは変更又は通信状況の見分の終了を請求することができるものとすること。取消しの請求があった場合において、裁判所は、次の各号のいずれかに該当するときは、刑事手続に使用する傍受記録及びその内容を記載した書面の全部又は一部の抹消を命ずることができるものとすること。

 7 傍受の手続に違法があるとき(その違法が重大でないときは、傍受した通信が重要な証拠でない場合に限る。)

 イ 傍受した通信が犯罪の実行に関連するものでないとき

 (2) 司法警察職員のした(1)の処分について、その職務執行地を管轄する地方裁判所を管轄裁判所として、(1)と同様の規定を設けるものとすること。

 (3) 検察官又は司法警察員は、(1)又は(2)により抹消を命じられた場合において、抹消に係る通信が重要な証拠であることが判明するに至ったときは、傍受の手続に重大な違法があった場合を除き、その所属する検察庁の対応する裁判所又はその職務執行地を管轄する地方裁判所の許可を得て、保管用原本から当該抹消に係る部分の複製を作成することができるものとすること。

 5 通信の秘密の尊重等

 検察官、検察事務官及び司法警察職員並びに弁護人その他通信の傍受に関与し又はその状況若しくは傍受した通信の内容を職務上知り得た者は、通信の秘密を不当に害しないように注意し、かつ、捜査の妨げとならないように注意しなければならないものとすること。

第五 証人等の保護

 一 証人の住居等の開示に関する配慮

 検察官は、刑事訴訟法第二九九条の規定による証人、鑑定人、通訳人若しくは翻訳人(以下「証人等」という。)の氏名及び住居を知る機会の付与又は証拠書類若しくは証拠物を閲覧する機会の付与に当たり、証人等若しくは供述者その他証拠書類若しくは証拠物にその氏名が記載されている者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖、困惑させる行為がなされるおそれがあると認めるときは、弁護人に対し、その旨を告げ、これらの者の住居が被告人又は関係者にみだりに知られないようにすることその他その安全を害しないように配慮することを求めることができるものとすること。

 二 証人の住居等に関する事項についての尋問の制限

 裁判長は、1及び2のいずれにも該当するときは、証人等又はその親族の住居、勤務先その他その通常所在する場所が特定されるべき事項についての尋問を制限することができるものとすること。

 1 証人等若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖、困或させる行為がなされるおそれがあり、これらの者の住居、勤務先その他その通常所在する場所が特定されるべき事項が明らかにされると、証人等が十分な供述をすることができないと認められること。

 2 被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがないこと。

第六 没収に関する手続等の特例

 一 第三者の財産の没収手続等

 1 第三の一1により没収すべき金銭債権が被告人以外の者に帰属する場合において、この者が被告事件の手続への参加を許されていないときは、没収の裁判をすることができないものとすること。

 2 1の財産の没収に関する手続については、刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法の規定を準用するものとすること。

 3 その他没収に関する手続等の特例については、麻薬特例法第四章と同様の規定を設けるものとすること。

 二 没収保全及び追徴保全

 1 裁判所は、第二の一1(1)若しくは(2)に記載する罪(麻薬特例法第二条第二項に規定する薬物犯罪に該当する罪を除く。)又は第二の二若しくは三の罪に係る被告事件に関し、第三の一1により没収することができる財産に当たると思料するに足りる相当な理由があり、かつ、当該財産を没収するため必要があると認めるときは、検察官の請求により、又は職権で、没収保全命令を発して、当該財産につき、その処分を禁止することができるものとすること。

 2 裁判官は、1の理由及び必要があると認めるときは、公訴が提起される前であっても、検察官又は司法警察員の請求により、1の処分をすることができるものとすること。

 3 裁判所は、1に記載する罪に係る被告事件に関し、第三の一2により追徴すべき場合に当たると思料するに足りる相当な理由がある場合において、追徴の裁判の執行をすることができなくなるおそれがあり、又はその執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあると認めるときは、検察官の請求により、又は職権で、追徴保全命令を発して、被告人に対し、その財産の処分を禁止することができるものとすること。

 4 1ないし3に係る没収保全及び追徴保全については、麻薬特例法第五章の規定と同様の規定を設けるものとすること。


 

    別表1

       (上欄)                  (下欄)

刑法

  第百八十六条第一項(常習賭博)      五年以下の懲役

  同条第二項(賭博場開張等図利)      三月以上七年以下の懲役

  第百九十九条(殺人)           死刑又は無期若しくは五年以上の懲役

  第二百二十条(逮捕及び監禁)       三月以上七年以下の懲役

  第二百二十三条第一項又は第二項(強要)  五年以下の懲役

  第二百二十五条の二(身の代金目的略取等) 無期又は五年以上の懲役

  第二百二十三条(信用毀損及び業務妨害)  五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金

  第二百三十四条(威力業務妨害)      五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金

  第二百四十六条(詐欺)          一年以上の懲役

  第二百四十九条(恐喝)          一年以上の懲役

  第二百六十条前段(建造物等損壊)     七年以下の懲役

 

 

    別表2

       (上欄)                  (下欄)

刑法

  第百三条(犯人蔵匿等)          三年以下の懲役又は二十万円以下の罰金

  第百四条(証拠隠滅等)          三年以下の懲役又は二十万円以下の罰金

  第百五条の二(証人等威迫)        三年以下の懲役又は二十万円以下の罰金

 

 

    別表3

       (上欄)                  (下欄)

刑法

  第百九十九条(殺人)           五年以下の懲役

  第二百二十五条(営利目的等略取及び誘拐) 二年以下の懲役

 

 

    別表4

刑法

  第百七十五条(わいせつ物頒布等)

  第百八十六条第一項(常習賭博)

商法

  第四百九十四条第一項(会社荒らし等に関する収賄)

  第四百九十七条第二項(株主の権利行使に関する利益の受供与)

弁護士法

  第七十七条(第七十二条又は第七十三条に係るものに限る。)(非弁護士の法律事務取扱
  等)

毒物及び劇物取締法

  第二十四条第一号(第三条に係るものに限る。)(毒物又は劇物の販売、授与、販売又は
  授与の目的での製造、輸入等)

  第二十四条の二第一号(興奮、幻覚又は麻酔の作用を有する毒物又は劇物の販売等)

出入国管理及び難民認定法

  第七十条第一号(不法入国)

  第七十三条の二第一項(不法就労助長)

武器等製造法

  第三十一条の二第一号(銃砲以外の武器の無許可製造)

出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律

  第五条第一項又は第二項(高金利)

  第八条第一項第一号(第一条又は第二条第一項に係るものに限る。)(出資金の受入れ、
  預り金)

  同項第二号(第一条、第二条第一項又は第五条第一項若しくは第二項に係るものに限
  る。)(禁止を免れる行為)

売春防止法

  第六条第一項(売春の周旋)

  第七条(困惑等による売春)

  第十条第一項(売春をさせる契約)

銃砲刀剣類所持等取締法

  第三十条の十五(けん銃等の譲渡しと譲受けとの周旋等)

  第三十一条の十六第一項第一号から第三号まで又は第二項(けん銃等以外の銃砲等の所
  持等)

  第三十一条の十七(けん銃等として交付を受けた物品等の輸入等)

  第三十一条の十八第一号(けん銃実包の譲渡しと譲受けとの周旋)

  第三十二条第一号(けん銃部品の譲渡しと譲受けとの周旋等)

薬事法

  第八十四条第五号(無許可医薬品販売業等)

著作権法

  第百十九条(著作権侵害等)

廃棄物の処理及び清掃に関する法律

  第二十五条第一号(第十四条第一項若しくは第四項又は第十四条の四第一項若しくは第
  四項に係る部分に限る。)(無許可産業廃棄物処理業)

無限連鎖講の防止に関する法律

  第五条(無限連鎖講の開設等)

貸金業の規制等に関する法律

  第四十七条第二号(無登録貸金業)

労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律

  第五十九条第一号(第四条第三項に係るものに限る。)(適用対象業務以外の業務につい
  ての労働者派遣事業)

 

 

    別表5

刑法

  第二百二十条(逮捕及び監禁)

  第二百二十一条(逮捕等致死傷)

  第二百二十四条(未成年者略取及び誘拐)

  第二百二十五条(営利目的等略取及び誘拐)

  第二百二十六条(国外移送目的略取等)

  第二百二十七条(被略取者収受等)

  第二百二十八条(第二百二十五条の二第一項に係るものを除く。)

人質による強要行為等の処罰に関する法律

  第一条(人質による強要等)

麻薬及び向精神薬取締法

  第六十四条第一項(ジアセチルモルヒネ等の輸出入、製造)

  同条第三項(同条第一項に係るものに限る。)(未遂)

  第六十四条の二(ジアセチルモルヒネ等の製剤、小分け、譲渡し、譲受け、交付、所持)

  第六十五条(ジアセチルモルヒネ等以外の麻薬の輸出入、製造、麻薬原料植物の栽培)

  第六十六条(ジアセチルモルヒネ等以外の麻薬の製剤、小分け、譲渡し、譲受け、所持)

  第六十六条の三(向精神薬の輸出入、製造、小分け)

  第六十六条の四(向錆神薬の譲渡し、譲渡し目的所持)

覚せい剤取締法

  第四十一条第一項(覚せい剤の輸出入、製造)

  同条第三項(同条第一項に係るものに限る。)(未遂)

  第四十一条の二(覚せい剤の所持、譲渡し、譲受け)

  第四十一条の三第一項第三号(覚せい剤原料の輸出入)

  同項第四号(覚せい剤原料の製造)

  同条第二項(同条第一項第三号又は第四号に係るものに限る。)(覚せい剤原料の営利目
  的による輸出入、製造)

  同条第三項(同条第一項第三号又は第四号に係るものに限る。)(同条第一項又は第二項
  の未遂)

  第四十一条の四第一項第三号(覚せい剤原料の所持)

  同項第四号(覚せい剤原料の譲渡し、譲受け)

  同条第二項(同条第一項第三号又は第四号に係るものに限る。)(覚せい剤原料の営利目
  的による譲渡し、譲受け、所持)

  同条第三項(同条第一項第三号又は第四号に係るものに限る。)(同条第一項又は第二項
  の未遂)

あへん法

  第五十一条(けしの栽培、あへんの採取、あへん・けしがらの輸出入)

  第五十二条(あへん・けしがらの譲渡し、譲受け、所持)

大麻取締法

  第二十四条(大麻の栽培、輸出入)

  第二十四条の二(大麻の所持、譲渡し、譲受け)

銃砲刀剣類所持等取締法

  第三十一条の二第一項(けん銃等の輸入)

  同条第三項(同条第一項に係るものに限る。)(未遂)

  第三十一条の三(けん銃等の所持)

  第三十一条の四(けん銃等の譲渡し、貸付け、譲受け、借受け)

  第三十一条の七(けん銃実包の輸入)

  第三十一条の八(けん銃実包の所持)

  第三十一条の九(けん銃実包の譲渡し、譲受け)

  第三十一条の十一第一項第二号(けん銃部品の輸入)

  同条第二項(未遂)

  第三一条の十六第一項第二号(けん銃部品の所持)

  同項第三号(けん銃部品の譲渡し、貸付け、譲受け、借受け)

  同条第二項(同条第一項第三号の未遂)

武器等製造法

  第三十一条第一項(銃砲の製造)

  同条第三項(同条第一項に係るものに限る。)(未遂)

  第三十一条の二第一号(銃砲以外の武器の無許可製造)

刑事法部会における参考試案に関する事務当局説明要旨

第一 組織的な犯罪に関する刑の加重等

 一 一定の組織的な犯罪の刑の加重

 1(1)及び(2)は、犯罪の形態に着目したものである。いわゆる組織性のある犯罪は、その結果の重大性等から一般に違法性が高いと考えられるが、その中でも、法人等の団体を作って実行した犯罪やこれに匹敵する程度の組織性のある犯罪は、通常計画性が強度で、これに従って多数人が統一された意思の下に犯罪を実行するという点で、その目的実現の可能性が高く、また、重大な結果を生じやすい、あるいは、ばくだいな不正の利益が生ずることが多いという意味で、特に悪質であり、このような類型につき、重い刑を定めるものとしている。

 (1)は、犯罪の実行のために、新たに団体を作り、その団体の活動として犯罪を実行した類型を規定したもので、例えば、会社を作り、その業務遂行の形態で詐欺を行った場合がこれに当たる。(2)は、団体が既に存在している場合に関するもので、前段が、既に存在している団体が団体の活動として犯罪を実行するため、その団体内部に、新たに組織を伴った場合であり、後段が、団体そのもの又はその内部の既存組織を犯罪を実行するために転用した場合である。例えば、前段は、殺人を企てて、団体の内部に、そのための実行部隊を編成して犯行に及んだような場合、後段は、元来犯罪団体とはいえないような団体がその活動として詐欺商法に乗り出したような場合である。

 1(3)は、団体の不正な支配力に着目したものである。犯罪と親和性の高い団体が強化されることは、社会にとってきわめて危険であり、その不正な支配力の維持、強化を目的とした犯罪は、違法性が高度と考えられることから、団体に不正な権益を得させ、団体が既に持っている不正な権益の維持、拡大を図る目的で実行した場合を類型化したものである。「不正な権益」とは、例えば、暴力団の縄張りがこれに当たり、例えば、みかじめ料を取るために、恐喝を行ったり、業務を妨害した場合などである。

 これらの犯罪は、一般的に高度の違法性を有するものと考えられ、犯罪の組職化の状況にかんがみ、そのことを刑事法上明らかにすることが必要と考えられるが、実際に刑を加重する罪の範囲については、これまでの犯罪の形態や暴力団構成員の占める割合、量刑の実情等を考慮している。

 なお、(3)に関しては、刑法一八六条一項(常習賭博)、同条二項(賭博場開張等図利)及び二四六条(詐欺)につき、これらの犯罪が団体の不正な権益の維持等を直接の目的として犯されることを想定することが困難であるため、除外している。

第二 犯罪収益等による事業経営の支配等の処罰

 一 犯罪収益等

 第二の二(犯罪収益等による事業経営の支配等)及び三(犯罪収益等の隠匿及び収受)の罪並びに第三の一による没収・追徴の拡大の対象財産の範囲を定めている。その定義の仕方は、基本的に、麻薬特例法の「不法収益等」の定義の仕方と同様である。

 1(1)は、@財産上の不正な利益を得る目的で犯した死刑又は無期若しくは長期五年以上の懲役に当たる罪(ただし、第二の二の罪等を除く。)、A財産上不正な利益を得る目的で犯した別表4の罪を前提犯罪として、これらの罪の犯罪行為により得た財産又は当該犯罪行為の報酬として得た財産(ただし、麻薬特例法の不法収益を除く。)を犯罪収益とするものである。重大な犯罪を対象にすべきものとするFATF(アルシュ・サミットに基づいて設置きれたマネー・ローンダリング規制に関する金融活動作業部会)の勧告を考慮して、法定刑基準によるものとした上、マネー・ローンダリング規制の趣旨にかんがみ、この法定刑基準から外れる罪であっても、多額の不正な利益を得ることが多いと考えられるものを個別に対象としたものであるが、その範囲については、種々の観点からの議論があろう。

 1(2)は、麻薬特例法と同様に、資金等提供等の罪に係る資金を犯罪収益とするものである。

 これらの前提犯罪は、組織的な犯罪であることを要件としていない。犯罪収益に関する規制は、組繊的な犯罪対策の要であるというのが国・


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も、その前提犯罪を組織的な犯罪に限定していない上、犯罪収益を生ずる犯罪には、例えば、暴力団の組織を背景とする犯罪のように、様々な形態のものがあり、適当な限定要件を課することは困難であることや、犯罪収益のはく奪と刑の加重とはおのずから観点が異なることによる。

 二 犯罪収益等による事業経営の支配等の処罰

 マネー・ローンダリング規制の目的は、犯罪収益が別の犯罪活動のために再投資されることを防止するとともに、合法的な経済活動に悪影響を与えることを防止することにあると理解されており、犯罪によって収益を獲得した者又は情を知って犯罪による収益を獲得した者が、

 それによって法人等の事業経営を支配することとなると、その事業経営に際して、犯罪収益等を不当な競争手段に用いるなど、不正な活動が行われるおそれがあるとともに、経済活動の中心となっている法人制度の健全性に対する信頼を害するなど、合法的な経済活動に悪影響を与える危険性があると考えられることから、犯罪収益等による事業経営の支配等の行為を犯罪化するものとしている。

 前段は、法人等への犯罪収益等の出資などによる影響力を利用して法人等の事業経営を支配し、あるいはこれに干渉する行為であり、後段は、法人等の事業経営を支配し、あるいはこれに干渉する目的での法人等への犯罪収益等の出資などの行為である。単に、株式の売買益を得る目的による株式の購入等は、これに該当しない。

 「支配した」というのは、自己の意思によって法人等の事業経営の方針を現実に決定する行為、「干渉した」というのは、「支配した」に準ずるもので、法人等の事業経営に関する意思決定の自由を妨げるような具体的危険性がある行為を考えている。

 なお、この罪は、合法的な経済活動への悪影響の防止という目的にかんがみ、犯罪収益等のはか、麻薬特例法の不法収益等をも対象としている。

 三 犯罪収益等の隠匿及び収受の処罰

 麻薬特例法の不法収益等に該当しない犯罪収益等を対象として、その隠匿及び収受(いわゆるマネー・ローンダリソグ)を犯罪化するものである。

第三 没収及び追徴の拡大

 一 犯罪収益等の没収及び追徴

 これは、犯罪収益等の的確なはく奪を可能にしようとするもので、その主たる内容は、@没収の対象となる財産を金銭債権に拡大するなど、その範囲を拡大し、A物又は金銭債権以外の財産についても、没収に代えて追徴することを可能にすることである。

 まず、1は、没収について二つの点でその範囲を拡大する。その一は、没収の対象を有体物だけでなく、金銭債権にも拡大するという点である。麻薬特例法においては、麻薬新条約を履行するため、没収の対象が有体物から広く無形の財産にまで広げられたが、ここでは、財産上の不正な利益を得る目的で犯した一定の犯罪につき、実務上最も必要性が高いと考えられる預金債権その他の金銭債権を没収の対象としている。その二は、(1)及び(2)により、犯罪収益と犯罪収益に由来する財産を没収することができ>


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Iな対価物に限らず、様々な形で転換した物又は金銭債権について、追跡できる限り、これを没収することができることになる。

 犯罪収益には、いわゆる財産犯の贓物やこれに準ずる金銭債権、身代金目的誘拐により得た身代金など、被害者から得た財産に係るものも含まれるが、贓物については、刑法及び刑事訴訟法の建前として、これを被害者に還付すべきものとされ、このように没収の範囲を拡大するとしても、被害者に回復させるべき財産を国がはく奪することは適当でないので、これらは、没収の対象から除くものとしている。

 2の追徴の拡大に関しては、まず、1の財産を没収することができないときはその価額を犯人から追徴することができるものとしているが、この場合、当該財産が費消等によりなくなったため没収できない場合に限らず、当該財産が物又は金銭債権以外の無形の利益であるため1の規定によっても没収できない場合も含む。これは、犯罪収益のはく奪を徹底する趣旨によるもので、このような仕組みは、賄賂などの場合と同様である。

 また、この追徴は、没収の範囲を拡大する関係から、没収が可能であっても、当該財産の性質、そめ使用の状況、当該財産に関する犯人以外の者の権利の有無その他の事情にかんがみ、これを没収することが相当でないと考えられる様々た場合があるので、麻薬特例法の不法収益の場合と同様に、裁判所の裁量的な判断により、その価額を追徴することができるものとしている。

 二 犯行供用物件等の没収

 例えば、ある法人において、組織的な犯罪に当たる殺人の実行を目的としてサリンの製造を行うため、法人としてその原材料や設備を購入したような場合、刑法においては、殺人予備罪の犯行供用物件等に当たるとしても、当該法人がこれを所有するものと認められる以上、犯行の後に犯人以外の者が情を知って取得したものではないため、没収ができず、不都合が生じる−方、第一の一1(1)ないし(3)に該当する犯罪につき、法人が犯人に犯行供用物件等を管理させていた場合は、これを没収することができるものとするのが適当と考えられる。ただ、組織的な犯罪にもさまぎまな形態があり、当該団体において、これについて防止に必要な措置を講じていたような場合に、これを没収するのは適当でないと考えられることから、この場合には、没収しないものとしている。

第四 令状による通信の傍受

 通信の傍受は、捜索・差押えといった従来の強制処分と異なり、密行的、継続的に通信の秘密やプライバシーを制約する性質を有するものであることから、処分の適正な実施を確保し、不当な権利侵害が行われることのないように、その要件や手続を定める必要があるものと考えられる。

 一 令状による傍受

 1 令状による傍受の要件等

 (1)令状による傍受の対象となる電気通信は、「電話又はファクシミリによる通信、コンピュータ通信その他の電気通信であって、その全部又は一部が有線によって行われるもの」であり、携帯電話は、一部が有線によって行われる電気通信であるから、これに含まれる。

 令状による傍受の要件は、@(1)のアないしウのいずれかに該当する場合であること、A犯人により犯罪を実行し又は実行することに関連する通信が行われると疑うに足りる状況があること、B犯人を特定し又は犯行の状況若しくは内容を明らかにするため他に適当な方法がないと認められることである。

 第一の要件について、対象となる犯罪は、死刑、無期懲役又は無期禁錮の定めのある罪のはか、別表5に掲げる罪、すなわち、逮捕及び監禁の罪、略取及び誘拐の罪、人質による強要等の罪、薬物又は銃器に関する罪に限定している。前述のような通信の傍受の性質を考慮し、法定刑の極めて重い特に重大な犯罪のほかに、人命に関わる重大な犯罪であって、被害者の安全のため特に慎重かつ的確な捜査が必要とされ、かつ、通信の傍受が有用と認められるものとして逮捕及び監禁、略取及び誘拐等の罪を対象とし、また、暴力団その他犯罪との親和性の強い団体等の犯罪組織が反復して行うことが多い密行性の強い犯罪であって、社会的な危険性が高いため、その検挙の必要性が特に高く、かつ、通信の傍受が有用と認められるものとして薬物又は銃器に関する罪を対象とするものである。

 アは、犯罪が既に発生している場合を対象とするもので、犯罪が行われたことについては、充分な理由という高度の嫌疑を必要としている。「数人の共謀によるものであると疑うに足りる状況があること」を要件としているのは、犯罪の形態上、犯罪の実行に関する通信が行われる蓋然性が高いことや、組織的な犯罪の対策の趣旨を考慮したものである。組織的な犯罪であることを要件としていないが、通信の傍受が組織的な犯罪の解明に有効な手段であるとはいっても、傍受を行う時点においては、組織的な犯罪であることまで疎明することが困難な場合も少なくない上、対象とする犯罪の性質上、刑の加重までの必要はなくとも、捜査が困難な組織性の強い犯罪も少なくなく、刑の加重の要件と同様の厳格な要件を設けることは手続法の性格上適当でないと考えられるからである。アは該当する例としては、犯行後の罪証隠滅に関する通信を傍受する場合や、拐取罪等に関して、共犯者を特定したり、被拐取者の所在をつかむため、逆探知で判明した犯人の電話についてそれを使用して行われる通信を傍受する場合等が考えられる。

 イは、既にアに掲げる犯罪が行われ、かつ、更に継続して行われると疑うに足りる充分な理由がある場合であり、法律的に別罪か一罪かにかかわらず、継続した意思や一つの計画に基づいてアに掲げる犯罪が繰り返し行われているような事実、例えば、営業的に行われている薬物の密売事案や大量の銃器を密輸入して順次売りさばくような事実等について、過去に行われた犯罪と引き続き行われる犯罪の全体を対象とするものである。

 ウは、既にある犯罪がアに掲げる犯罪の実行のために必要な行為として行われ、当該犯罪が行われると疑うに足りる充分な理由がある場合であり、アに掲げる犯罪の実行を目的とする一つの計画の下に一連の犯罪が行われているような事実、例えば、薬物や銃器の密輸入の予備と密輸入、薬物や銃器の取引のための密輸入あるいは製造と譲渡しがこれに該当し、実質的に一体と認められる事実について、その目的とする犯罪を含め、これら全体を対象とするものである。

 第二の要件は、傍受を行おうとする犯罪において、具体的な根拠に基づいて、犯人が当該犯罪の実行に開連する通信を行う蓋然性が認められることを必要とするもので、「犯罪を実行し又は実行することに関連する通信」には、実行行為そのものに関する通信のみならず、例えは罪証隠滅工作に関する通信等も含まれる。

 第三の要件は、いわゆる補充性の要件であり、前述のような通信の傍受の性質にかんがみ、事実の解明のために他に適当な方法がない場合に限ってこれを認めるものとしている。例えば、他の捜査手法のみでは犯人の特定等が著しく困難である場合や被害者の生命、身体に危険が及ぷ場合が考えられる。

 (2) (1)アないしウについて、いずれも「数人の共謀によるものであると疑うに足りる状況があること」を要件としているが、薬物又は銃器に関する罪の譲渡しと譲受け等については、これらが暴力団等の典型的な犯罪であるところ、これら対向犯については必ず複数の者の間で犯罪の実行に関する意思の連絡を伴うものであり、また、実際には譲渡し又は譲受けが組織的に行われている場合であっても、傍受を行う時点において、それが数人の共謀によるものであることの疎明が困難である事案が少なくないと考えられることや、大口の売買等においては、例えば暴力団の組長クラスが単独で扱っているなどの事実が想定されること等にかんがみ、共謀による場合でなくても傍受ができるものとしている。

 (3) 傍受令状が発付されるためには、傍受の対象とする電話その他の通信設備の特定が必要であり、被疑者が設置し若しくは使用している電話その他の通信設備その他傍受の対象となる犯罪の実行に関連する通信が行われると疑うに足りる通信設備であることを疎明する必要がある。

 (4) 傍受ができる期間は、諸外国の立法例より限定して一〇日以内とし、裁判官が令状発付の際に期間を定めるものとしている。

 また、傍受令状の請求に関し慎重な判断を行うものとするため、令状を請求できる者を一定の範囲の検察官又は司法警察員とし、令状を発付する者を原則として地方裁判所の裁判官とし、急速を要する場合に限り簡易裁判所の裁判官としている。一定の範囲というのは、検察官については、例えば検事以上の者に限り、司法警察員については、例えば警察官の場合、一定の階級以上の者であって国家公安委員会等が指定する者に限定すること等が考えられる。

 (5) 裁判官が付する条件としては、傍受ができる時間帯の限定等が考えられる。

 2 傍受令状の記載事項

「傍受令状による通信状況の見分」とは、電話を例にとれば、交換機のところで、傍受の対象となる特定の回線に必要な機器を接続し、発信又は着信があったら直ちに傍受することができる状態で、傍受すべき通信が行われるか否かを見分することをいうものである。

 3 傍受ができる期間の延長等

 傍受ができる期間の延長に関しては、地方裁判所の裁判官が、必要があると認めるとき、一〇日以内の期間を定めて傍受ができる期間を延長することができるものとし、延長の回数には限定を設けない一方で、傍受ができる期間を限定し、通じて三〇日を超えることができないものとしている。

 4 傍受令状の再請求

 同一の犯罪事実に関し同一の通信設備について前に傍受が行われた場合において、裁判官が再度傍受令状を発する要件に関しては、傍受の期間を最長三〇日と限定した趣旨から、更に傍受を行うことを必要とする特別の事情があると認めるときに限るものとしている。例えば、傍受開始後の事情変更により、傍受ができる期間内に傍受すべき通信が行われる見込みがなくなったため早期に傍受を終了したが、傍受ができる期間の経過後に傍受すべき通信が行われることが判明した場合や、事案の解明のために重要な証拠となる通信が、傍受ができる期間の経過後に行われることが判明したような場合等が考えられる。

 二 傍受の実施等

 1 令状の提示

 傍受に着手するに先立ち、通信事業者等に対する令状の提示を義務付けるものである。例えば、有線により伝送されている通信を傍受するためには、当該通信が行われる通信設備に傍受のための機器を接続することが必要である上、また、通信事業者は、通信の秘密を保護すべき立場にあることから、「処分を受ける者」に該当するものと考えられる。

 「業務のために電気通信に係る交換設備のある通信設備を設置するもの」とは、例えば、オフィスビルやホテルなどの内線網や自己の事業用にいわゆる自営の通信設備を設置する者を念頭に置いている。例えば、ホテルの一室の電話機により行われる通話を傍受するには、当該ホテルの交換設備において傍受することが、他の宿泊客に対する通話を最初から除くことができる点で、最も妥当な方法と考えられることによる。

 2 必要な処分等

 捜索・差押えに関する刑事訴訟法一一一条と同様に、傍受を実施する者が傍受の目的を達するために必要な処分を自ら行うことができることとするものである。

 電話による通信を傍受するために、無線発信機を備えた傍受機器をひそかに電話機に設置する目的で人の住居にひそかに立ち入るようなことは適当でないと考えられるため、承諾なく個人の住居等に立ち入ることはできないものとしている。

 3 通信事業者等の協力義務

 通信の傍受は、他の強制処分と異なり、傍受を実施する者があらゆる面で自力執行することは、現実に困難な場合も多く、また、他の通信の秘密の保護の面からも適当でないと考えられる。例えば、交換設備に収容されている回線のうち傍受のための機器を接続すべきものの特定など、通信事業者等の協力を得ることが必要かつ適切な場面もあるものと思われる。他方において、通信事業者は、通信の当事者との関係では、通信の秘密を守る義務があり、傍受を実施する者に協力することができる法的根拠を明確にしておくことが望ましいと思われる。このような観点から、通信事業者等の協力義務を規定するものである。

 通信事業者等が協力を拒むことのできる「正当な理由」としては、例えば、他の利用者に対する役務の提供に重大な支障を生じるような傍受実施方法であること等が考えられる。

 4 立会い

 通信事業者等は、「処分を受ける者」に当たると考えられ、その立会いを求めなければならないものとすることが適当であり、また、傍受機器を接続する回線が令状により許可された回線か否か、令状により傍受が許された期間又は時間が遵守されているか否かなどの外形的な状況に関しては、通信事業者等が、通信の秘密の保護のためにも、これをチェックすることができるものと考えられ、通信事業者等の立会いを要するものとしている。

 ただし、通信状況の見分は、一日二四時間連日にわたって行われることもあり得るため、立会人を常時得ることができない場合も考えられ、そのような場合には、常時立会人がいなくとも、見分を行うことはできるものとしている。この場合にも、通信状況の見分を行うことのできる期間の制限や時刻の制限が遵守されているか否かのチェックのために、見分の開始時と終了時には立会人を立ち会わせなけれはならないものとし、また、傍受した通信を記録した物は、記録媒体の交換後速やかに、立会人が封印をするものとする関係から(12参照)、記録媒体の交換時にも、立会人を立ち会わせるものとしている。もっとも、見分の開始・終了時等に立ち会わせれば、その他の時間は、立会いを得ることが可能であっても、立ち会わせる必要がないという趣旨ではない。

 5 該当性判断のための傍受

 (1) 傍受すべき通信に該当するか否かが明らかでない場合には、該当性判断に必要最小限の範囲で通信の傍受を行うことができることとするものである。

 関連性がないと思われる通信を除外する方法については、傍受を中断するアメリカの方法と、すべての通信を機械的に記録してその中から関連性があると思われるものだけ取り出すドイツ、フランスなどの方法があるが、通信の秘密の侵害をできるだけ小さくするためには、アメリカと同様の方法によるのが適当と考えたものである。

 (2) 外国語又は暗号による通信であって、傍受を実施する者が、傍受の時に、その内容を知ることが困難なものについては、同様の方法によることができないので、例外的に、当該通信全体をとりあえず記録することを許すものとし、この場合、記録した通信を事後的に翻訳又は解読した上で、できる限り速やかに当該通信が傍受すべき通信に該当するか否かの判断をするものとしている。そして、傍受すべき通信以外の通信は、捜査・公判に使用する記録からは削除することになる。

 6 業務上の秘密の保護

 刑事訴訟法一〇五条の押収拒絶権及び一四九条の証言拒絶権と同様に、業務上の秘密の保護を図るものである。押収拒絶権等の場合とは異なり、第三者である傍受実施者には、傍受を実施するその場で即座に、秘密に該当するか否かの的確な判断をすることが困難であるため、業務者との間の通信であって、業務に関するものは、原則として傍受することはできないものとしている。

 7 他の犯罪に関する通信

 傍受令状により傍受をしている場合に、傍受令状の被疑事実以外の犯罪を実行し又は実行することに係るものと明らかに認められる通信が行われたときは、当該通信の傍受ができることとするものである。傍受令状により侵害が正当化されている範囲内で傍受を行っているときに、保護の必要性の低い通信が行われたものであり、また、犯罪捜査の職責を有する捜査官に傍受の中断を求めることは、捜索・差押えの場合とは異なり、その場で直ちに傍受して記録しなければ、当該通信を証拠として保全する機会が全く失われてしまうことから、その職責に反する措置を強いることになると考えられる。

 8 相手方の通信設備を特定する事項の探知

 傍受令状により通信状況の見分をしている間は、別の令状を得なくとも、その間に行われた通信の相手方の通信設備を特定する事項を探知することができることとするもので、電話による通信の場合でいえば、通信状況の見分の対象としている電話番号の電話機からかけられた通話の着信先の電話番号、見分の対象としている電話番号にかかってきた通話の発信元の電話番号を探知するものである。

 通信の相手方を特定する事項も、保護されるべき「通信の秘密」に含まれると解されているが、傍受により通信の内容を知ることが許される要件が満たされている場合には、通信の相手方を特定する事項を知ることも許されるものと考えられ、また、該当性の判断にも有用であることから、傍受令状以外の令状は必要としないこととするものである。

 11 実施状況を記載した書面の提出

 通信の傍受の実施の適正を確保する観点から、事後的に実施の状況を裁判官に明らかにすることとするものである。延長請求時の書面については、延長を許可するか否かの重要な判断資料の一つにもなると考えられる。また、傍受した通信を記録した物の原本は、裁判官が保管し、一定の利害関係人がその原本の聴取・閲覧等を行うことができるものとしているが(三2参照)、その場合には、できるだけ必要な部分を特定し、他の通信の秘密の保護に注意することが必要であるところ、傍受実施状況を記載した書面は、裁判官が原本の聴取・閲覧等をさせる際に、関係部分を特定するための重要な資料にもなる。

 12 記録の封印・保管等

 傍受実施状況の適正を事後的に検証することができるようにするため、傍受した通信は、すべて録音その他通信の性質に応じて適切な方法により記録するものとし、傍受記録の適正な管理の観点から、傍受記録は、立会人が封印し、裁判官において保管するものとしている。

 実際に傍受した通信のうち、該当性判断のために傍受したものの、犯罪の実行に関連するものではなかった通信は、捜索・差押えで言えば、捜索場所にある物をその場で内容を確認することと類似したものであって、捜査機関が傍受実施後も保持することを認めるのは適当ではなく、その必要もないことから、刑事手続に使用する傍受記録からは削除するものとしている。なお、裁判官が保管する傍受記録の原本は、傍受が適正に実施されたか否かを事後的に検証するため、実際に傍受した内容をすべて明らかにする手段を残しておく必要があることから、その削除は行わない。

 三 事後措置等

 1 通知

 刑事訴訟法一〇〇条の郵便物の押収の場合と同様に、可能な限り、傍受した通信の当事者に、傍受に係る一定の事実の通知をすることとするものである。傍受をしたものの、刑事手続に使用するための傍受記録に残されていない通信については、刑事手続に使用することができず、また、傍受すべき通信に該当するか否かの判断のために当該通信の一部を傍受したにとどまり、捜索における対象物かどうかの確認と同様の措置であるので、通知までは要しないものとしている。

 通知は、できるだけ速やかに行うべきものと考えられるが、一方では、傍受記録の整理、傍受した通信の内容の分析、傍受した通信の当事者の確定及びその所在の確認等の作業には一定の日時を要すると考えられる上、傍受結果に基づいて更に一定の捜査を被疑者らに察知されないうちに進める必要がある場合もあるものと考えられることから、通知すべき期限は、通信状況の見分の終了後三〇日以内とし、さらに、通知によって捜査が妨げられるおそれがある場合には、裁判官がその期間を延長することができるものとしている。なお、この場合も、刑事訴訟法一〇〇条三項と異なり、通知は、必ず行われることになる。

 2 保管用原本の聴取・閲覧等

 一定の利害関係人は、裁判官が保管している傍受記録の原本の聴取・閲覧等を行うことができることとするものである。「正当な理由」については、刑事手続に使用する傍受記録等を証拠として請求された被告人・弁護人あるいは刑事手続に使用する傍受記録の内容を確認した通信の当事者が、刑事手続に使用する傍受記録の内容に疑問をいだき、保管用原本により内容を確認したい場合は、これに当たると考えられる。また、いったんは関連性がないものと判断して、刑事手続に使用する傍受記録から削除した通信の内容が、その後の捜査により、実際は関連性を有するものであったことが判明した場合にも、「正当な理由」があるものと考えられる。

 3及び4 不服申立て

 3は刑事訴訟法四二九条に、4は四三〇条に対応するものである。

 検察官、検察事務官、司法警察職員のした傍受に関する処分については、処分の取消し・変更のはか、通信状況の見分の終了を請求することができるものとしている。

 処分の取消しの請求があった場合であって、傍受の手続に違法があるとき又は傍受した通信が犯罪の実行に関連するものでないときには、当該通信がその後捜査・公判に用いられることがないようにするために、刑事手続に使用する傍受記録及びその内容を記載した書面の全部又は一部の抹消を命ずることができるものとしている。ただ、傍受が適正に実施されたか否かの事後的な検証ができるようにするためには、実際に何を傍受したかをすべて明らかにする手段を残しておく必要があると思われるので、この場合も、保管用原本からの抹消は行わない。また、抹消を命ずる要件のうち、傍受の手続の違法については、「その違法が重大でないときは、傍受した通信が重要な証拠でない場合に限る」としている。差押えの場合は、違法があれば、いったん処分を取り消し、改めて差し押えることができるのに対し、傍受の場合には、このようなやり方をとり得ないので、違法収集証拠の排除に関する考え方をある程度取り入れる必要があると考えたものである。

 抹消を命じられた通信が、その後、重要な証拠であることが判明するに至ったときには、傍受の手続に重大な違法があった場合を除き、検察官又は司法警察員は、裁判所の許可を得て、保管用原本から当該抹消に係る部分の複製を作成することができるものとしている。前同様、電気通信の性質上、再差押えに当たる再傍受という手続をとることはできないため、このような手続も必要と考えたものである。

 5 通信の秘密の尊重等

 通信の秘密が憲法上保障された重要な権利である上、効果的に傍受を実施するためには、秘密保持の必悪性が大きいことから、立会人や傍受に協力した通信事業者等を含め、傍受に関与した者又は傍受の状況若しくは傍受した通信の内容を職務上知り得た者は、通信の秘密を不当に害しないように注意し、かつ、捜査の妨げとならないように注意しなければならないものとしている。

第五 証人等の保護

 一 証人の住居等の開示に関する配慮

 刑事訴訟法二九九条の規定によるいわゆる証拠開示の際に、検察官は、証人や供述者あるいはその親族などに危害が加えられるおそれがあると認めるときは、弁護人に対し、その旨を告げ、これらの者の住居が被告人その他の関係者にみだりに知られないようにすることを始め、その安全を害しないように配慮することを求め、注意を喚起することができるものとしている。

 二 証人の住居等に関する事項についての尋問の制限

 証人等又はその親族に危害が加えられるおせれがあり、かつ、被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがないときには、裁判長は、証人等又はその親族が通常所在する場所が特定されるべき事項についての尋問を制限することができることとするもので、裁判長の訴訟指揮権の行使の一態様と考えられる。

 第六 没収に関する手続等の特例

 一 第三者の財産の没収手続等

 第三者の財産の没収手続等について麻薬特倒法四章と同様の規定を設けることとするものである。

 1及び2は、第三の一の犯罪収益等の没収に関し、金銭債権が被告人以外の者に帰属する場合の取扱いを定めるものでるる。有体物の場合には、刑事事件における第三者所有物の没収手続昇に関する応急措置法の規定が適用されるが、金銭債権には、その適用がないので、麻薬特例法二〇条と同様に、これを準用することとして、有体物と同様の取扱いをするものとしている。

 二 没収保全及び追徴保全

 第三の一による犯罪収益等の没収及び追徴は、犯罪収益等を直接的にはく奪することを通じて、組織的な犯罪に対処しようとするものであるが、これを確実に行うためには、その対象となる財産が散逸しないように、麻薬特例法と同様に、その処分を一時的に凍結するという保全の制度が必要であるものと考えられる。

 1及び2は、没収保全に関するものである。没収の対象を金銭債権にも拡大する場合、金銭債権は、刑事訴訟法上の差押えができない上、その支払いがされてしまうと没収ができなくなるため、その処分を一時的に禁止する制度が設けなければ、これを確実に没収することは、非常に困難であると考えられる。しかも、その必要性は、起訴後に限らず、起訴前の捜査段階においても高いと考えられるので、起訴の前後において、没収保全を行うことができるものとしている。1が起訴後の没収保全で、2が起訴前の没収保全に関するものであり、このような没収保全については、麻薬特例法五章の規定と同様の規定を設けることが適当と考えられる。

 3は、追徴保全に関するものである。

 麻薬特例法とは異なり、起訴後に限って、この制度を設けるものとしている。

 追徴保全についても、起訴前にこれを行う必要がある場合も想定し得ないわけではないが、他方において、追徴保全は、一般財産の処分を禁止するという点で、没収保全よりも、その影響が広いものであるし、一般的な債権としての性格をもつ追徴の裁判の執行確保という趣旨からすると、公訴の提起によってその必要性が特に現実的なものになった段階でこれを可能とすることが通当と考えたものである。追徴保全についても、麻薬特例法五章の規定と同様の規定を設けることが適当と考えられる。


上記の内容は、ジュリスト(有斐閣)1996.12.15(1103) 165頁以下に紹介 されています。
上記の内容について、誤記等にお気付きの場合は、清見 kiyomi@mail.at-m.or.jp までご連絡いただければ幸いです。



組織的犯罪刑事法整備参考試案(いわゆる盗聴法案)抜粋

いわゆる盗聴法案の概要

代表声明文1・法務省に対する質問書

法務省回答1

代表声明文2・法務省に対する質問書

法務省会見・内容報告

いわゆる盗聴法案に関する議論経過

盗聴法案についての清見勝利会員の見解