問答集:行政指導 (1997年12月)

編集:金森 喜正

山下 裕
今日の日本経済新聞夕刊に「松浦法務大臣が、神戸小6殺害事件で逮捕された少年の顔写真を掲載した2誌に対し、雑誌の回収を求める勧告を出す」旨の記事がありました。

新潮社の行為は明らかに少年法61条に違反していますが、法務大臣に勧告を出す権限はあるのでしょうか。根拠法をご存知の方は教えて頂けませんか。

立山 紘毅
そのような法律はまったく存在しません。越権行為としかいいようがありません。

放送法・電波法に関しては、3か月以内の放送免許の効力の停止がありますが、これにしても、放送内容を理由とする停止については、憲法違反と解するのが通説です。

これは世論に悪乗りした暴挙です。政治家としての適性を疑います。ぜひとも、次の選挙で有権者は憲法15条に定められた権利を適正に行使しましょう。

藤田 康幸
えーと、今は、手元に詳しい資料がないのですが、確か、法務省設置法で所管事項として、人権擁護に関する事項があり、そのため、法務省に人権擁護局が設けられ、また、人権擁護委員法により、人権擁護委員が委嘱されたりしていると思います。

今までの勧告例をすぐには思い出せませんが、強制力がない勧告を出す権限はあるとされてきたのではないかと思います。

私も調べてみるつもりですが、立山先生も調べてみてください。

なお、弁護士会も、人権侵害事件については、勧告や、もっと強い警告を出すことがあります。

仮に問題があるとした場合は、法務大臣と法務官僚の関係を考えたときには、個別の政治家としての現法務大臣の問題としての側面は薄い感じがしますが、どうでしょうか。

寺中 誠
勧告である限りは、出す権限はあると解することができます。ただ今回の勧告の内容として、雑誌の回収が入っていますね。これを自主的におこなえという勧告が出せるかどうかは、微妙なところだと思います。強制力のある措置ならば絶対アウトですが。

少年法61条が罰則を規定していないのは、それを処罰する権限を政府に与えていないからです。それを超えて、たとえ行政指導の文脈であっても、一種強制力を持ちかねない措置を講ずるとしたら、法制度の上からは大きな問題があると思います。

勝手に少年法61条を自分の都合のよいように解釈して写真を掲載したフォーカスは問題ですが、行政府も、少年法61条を勝手に解釈する権限はありません。行政府の判断でおこなえる措置には当然限界があるはずです。

岩田 和晃
教科書的な話で恐縮ですが、「勧告」というのが行政指導の性質をもつものであれば、所掌事務の範囲内である限り(行政手続法32条)、法律の根拠は不要とするのが判例・通説だったと思うのですが。(「行政法 I 第二版」 塩野宏 有斐閣 169頁)

立山 紘毅
行政法学者の間ではそれが通説だと記憶していますが、憲法学者の間では行政指導に関して、より厳しい態度で臨む説が有力だったと記憶しています(あまり記憶が定かではありませんが)。

もう一つ、対象の性質が問題になります。

つまり、社会経済領域に属する積極的・形成的規制の場合であればともかく、(ホンネにおいて「売れればいい」式の週刊誌にすぎないとしても、外形的には)「表現の自由」という優越的価値に属する事柄の場合、その種の行為を野放しにすることの弊害は否定できません。ことに、これが前例となって繰り返されることの弊害はとうてい無視できないのです。たとえば、ペルーでの人質事件に関して、政府の方針に反する報道や意見に対して、強圧的な姿勢で臨むことを当然とする「意見」がいかに多かったか――本家MLで紹介しましたが、小倉利丸氏のホームページに対する「圧力」の事例等を想起してください。また、この事件においても取り沙汰されましたが、オウム問題に関するTBS事件の場合も、法に根拠のない「処分」が強行されたことも事例として挙げられます。こういう、法治国家・近代国家以前の恣意的な法運用が横行するところで、この種の「勧告」の前例が出た、ということには、やはり重大な疑義を覚えるのです。

山下 裕
 行政手続法第32条は「行政指導」と規定しています。法務大臣が行った「勧告」の性質がよくわかりませんが、例えば、国土利用計画法第24条の「勧告」に対して従わない場合は、同法第26条によって「公表」されることになっています。法務大臣の「勧告」に従わない場合は、どのような措置が講じられるのでしょうね。単なる行政指導の性質しかないのであれば、何故「勧告」といったのでしょうね。

岩田 和晃
法務大臣が何を考えているかは僕にはわかりませんが、行政指導とは、行政手続法2条6号によれば、「行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないものをいう。」とされています。

ですので、「勧告」が行政指導であってもおかしくはないと思います。

詳しいことはわかりませんが、いろんな法律で「勧告」という言葉は使われているようです。

それから、国土利用計画法上の「勧告」も、行政指導ととらえられているようです。

また、立山先生によれば、個別の根拠法はないようなので、勧告に従わなくてもなにもされないのではないでしょうか。

もし何らかの強制措置をとれば、どんな学説によっても違法になると思われます。

−以上−