編集: 金森 喜正
パネリスト(町村、小倉、山内、田中、崎山、藤本)順不同敬称略

動物病院対2ちゃんねる事件第1審判決をめぐって
2003.1.6掲載

町村: 判例タイムズ1104号85頁に、横書きで拙文が掲載されました
 要するに2ちゃんねるが名誉毀損したわけではないのだから免責事由の立証責任なんて考えるのはおかしいんじゃないか、ということが言いたかったのです。
 もう一つ、被害者救済をプロバイダに求めるなら、やはり仮処分で削除を求めるのが本筋ではないかと。

小倉: ただ、削除請求権の相手方をプロバイダとするためには、名誉毀損の行為主体をプロバイダとしないといけなくなりません?

町村: 置き石をした子供の仲間に、条理上の除去義務を認めた最高裁判決がニフティ1審判決の条理上の削除義務の下になってましたよね。
 まさしく不法行為者以外の者に差止め義務を認める理屈が「条理」なわけですから、プロバイダが名誉毀損の行為主体でないという前提です。
 もしプロバイダを共同不法行為者(幇助)としてとらえるなら話は別ですが、そうなるとプロバイダには編集責任を負わされるのと代わりなくなりそうでしょ?

小倉: 動物病院事件の場合、具体的な名誉毀損発言が流通していることを知りながら削除等の措置を講じなかったことをもって、(不作為による)名誉毀損行為としているように理解している(幇助という構成ではない。)のですが、そうならば、(不作為による)名誉毀損行為を行っているプロバイダに対し削除請求を行うというのは素直な構成だと思うんですよね(この場合、プロバイダもまた、(少なくとも具体的な名誉毀損発言を認識した後以降ですが)名誉毀損の行為主体という前提なのではないかという気がします。)。
 今のところは、ファイルローグ事件以外では、どのような情報が流通しているのか(あるいは流通されうる状態に置かれたか)を具体的に認識していない人が行為主体と認定された裁判例はないわけですし、それはそれでプロバイダ責任制限法3条1項の考え方とも矛盾しないのかなと。
 で、不作為を作為と同レベルの行為として位置付けるためには作為義務が必要なわけですが、その作為義務を基礎付けるのが、(具体的な名誉毀損発言を発見したら)削除等の適切な措置を講ずるべきであるとする条理上の義務ということなのではないかなあというふうに思うわけです。だから、具体的な名誉毀損発言を認識した後も削除等の措置を講じないという(不作為による)名誉毀損行為を行う場合、公共の利害に関する事項について、専ら公益を図る目的で行わなければならないし、発言内容が真実であるか、又は真実であると信ずるに相当の理由があることを立証できなければならない(そうでないならば、損害賠償責任を負う。)ということになるのではないかなあというふうに思うのです。

町村: 不作為の名誉毀損というのは、かなり珍しい概念ですが、不可能ではありませんね。
 他人の表現行為を意図的に利用して名誉毀損行為に及ぶということも考えられますから。
 でもそれを認めるとしても相当に絞っておかないと、メディア(媒体)を運営する人はとても重いリスクを負うことになります。
 名誉毀損であるためには、社会的信用が低下するであろう発言の他に、公共性、公益目的、真実性・相当性が備わっていなければならないです。要件事実的には、もちろん請求原因事実にならないわけですが、他人の表現行為を阻止すべき作為義務を生じさせるためには、単に他人の社会的信用が低下するかもしれないということだけでなく、それが法的に名誉毀損に当たるとの認識または認識可能性が必要だと思うわけです。  そうではなくて、単に他人の社会的信用が低下するであろう言動を具体的に知っただけで、それが公共の利害に関係するかどうか、真実かどうかを確かめ、かつ公益を図る目的をもって、真実と判断するだけの相当の調査を行ってでないと、削除しなければならなくなるとなると、プロバイダというプロバイダは誰かを批判・非難する発言を目にするたびに真実かどうかの調査をしなければならなくなってしまいます。
 それはたいそう不当なことだと考えています。

小倉: しかし、当該名誉毀損的発言について、公共性、公益目的、真実性・相当性の要件がないことを立証しなければ名誉毀損的発言の削除を求めることができないということになると、匿名の発言者による名誉毀損的発言の大部分は、事実上、プロバイダに対して削除を求めることができなくなってしまいます。
 例えば、「私の友達が昔、○○弁護士にレイプされました。みなさん、○○弁護士を信用してはいけません。」という発言が匿名サイト上でなされていることを発見した場合、ISPは当該サイトの管理者に対し、当該発言は○○弁護士の名誉を毀損するものであり原則として違法なものであることを告げた上で、一定期間内に、公共性、公益目的、真実性・相当性の要件が全て揃っていることを示す資料の提出を促し、一定期間内に資料の提出がなかった場合もしくは提出を受けた資料からは発言内容が真実であると信じることができなかった場合には、当該発言を削除すればよいわけで、それはそんなに大変というほどのことでもありません。
 これに対して、被害者側が立証責任を負わされてしまうと大変です。弁護士がレイプ犯であるという事実には公共性があるでしょうし、発言者が誰だかわからない以上、公益目的がなかったかどうかなんてことは知りようがありません。すると、発言内容が虚偽であることを立証しないといけないわけで、それはこの場合、「これまで一度もレイプをしたことがない」ということを立証しないといけないわけですが、そのためには、自分がセックスをしたのは○年○月○日に××としたのと・・・というふうに全ての性体験を摘示してかつそれ以外にはセックスをしていないことを立証するとともに、全ての場合について相手方の合意があったことを立証しなければなりません。
 でも、それってたいそうバランスを欠いていると思います。

町村: 条理上、削除義務があるというために、小倉さんのような厳格な解釈を求めるのなら、そういうことになるでしょう。
 でも違法性の概念はオールオアナッシングではないので、名誉毀損の成立要件たる社会的な信用の低下ということのほか、公共性・公益目的についての評価(これには濃淡があります)、真実性についての蓋然性、あるいは一応の推定を考慮し、これと削除により生じる表現者・プロバイダの不利益との相関関係により決すればよいわけです。
 なお、表現者が匿名のまま、真実性・相当性について根拠を示さない以上、利益衡量としては削除による不利益が乏しいと評価されてもやむを得ないだろうと思います。
 でもそれが削除義務違反による損害賠償をプロバイダに課すということに直結すると、危ない奴は全部消す、ということになるわけで、まして裁判官まがいの調査を要求され、その判断を誤ったら損害賠償、という責任を課されるのは弊害が大きいでしょう。
 理屈としては、削除義務違反が認められても、さらに結果回避の期待可能性がないので過失がない、ということになりましょうか。

小倉: でも、違法性阻却事由の有無って、オールオアナッシングだと思うのですが。
 「名誉毀損の成立要件たる社会的な信用の低下ということのほか、公共性・公益目的についての評価(これには濃淡があります)、真実性についての蓋然性、あるいは一応の推定を考慮し、これと削除により生じる表現者・プロバイダの不利益との相関関係により決すればよいわけです。」というようなことをいわれたら、却ってプロバイダは困りませんか?
 それより、3条関係については、発信者の提出した資料によれば、公共性・公益目的があり、かつ内容が真実だと信じるのが相当だったか否かを判断するという方がプロバイダの負担も軽いと思うのですが。

町村: そのようなことを判断するのは裁判所ですから。
 裁判所が削除を仮処分なり本訴なりで命じたら削除すればよい、という体制が望ましいわけです。

小倉: すると、名誉毀損発言を見つけた被害者は、常に仮処分申立て→本訴提起をしないと、その削除を求められないということになりますが、それは、被害者にとってもプロバイダにとっても不幸ですね。プロバイダとしては、少なくとも通常ケースについては、ガイドラインにしたがって訴訟外で粛々と処理ができるような規範こそが望ましいと思うのですが。

町村: 「できる」ということと「しなければいけない」ということとは違うわけです。
プロバイダが自らのガイドラインに従って訴訟外で任意に対応することは、電気通信事業法と、プロバイダ契約の目的を達し得なくなるような恣意にわたらない限り、なしえるでしょう。
 だから小倉さんのこの望ましい体制は実現可能です。
 ただ、そうしなけば損害賠償、そしてその場合に法的判断を誤れば損害賠償、という部分に異を唱えているだけです。

小倉: そうですか?
 真実性の抗弁などの違法性阻却事由もないことをもってプロバイダ責任法にいう「権利を侵害された」ことと捉えるのだとすると、当該発言には真実性の抗弁などの違法性阻却事由がないと信じるにつき相当の事由がない限り、プロバイダ責任法3条2項1号の免責を受けられないですよね。
 放置しておいても何のお咎めもなし、だったら放置するのが合理的ですね。特に、会員でも何でもない人が被害者である場合、自分の顧客である会員の「自由」を制約してまで、被害者の名誉なんぞというものに配慮する理由はありませんね。
 実際、2ちゃんねるは、少なくとも法人・公人部門についてはそうだったわけだし。
 また、仮処分といってみたところで、仮処分を行うとなれば、本人訴訟でやるにしたって、結局供託金を積まなければいけないわけですし、本案訴訟を起こすとなれば、それなりに時間がかかるわけですね(特に、真実性の抗弁も相当性の抗弁も成り立たないことを原告の側で立証しなければいけないとなると、「私は、○○にレイプされました」的な匿名発言1つ削除するにしても、これまでの性経験を全て列挙してその全てにおいて相手方の同意があったこと及びそれ以外には一切セックスをしていないことをすべて主張・立証しなければいけないわけですし、半年やそこいらってわけにはいかないですね。)
 それに、第三者の発言に関して真実性・相当性の判断を誤った場合に損害賠償責任を負うリスクを負うというのは、例えば、読者の投稿を新聞に掲載する場合なんかでも共通しているわけで、この場合に、新聞社はその発言内容が真実か否かを証明する術はないから一切責任を負わないのだという議論は知る限りなかったわけで、プロバイダ等が特別扱いされる理由はないように思うのですが(既存のメディアとの違いはその発言内容の真実性を証明しうる可能性の差ではなく、発言内容が掲載された時点で掲載したことを認識できるかどうかの差だと思うのですが。)。
 それと、動物病院事件では、被害者が何をどう立証した場合に、それでも発言を任意に削除しなかった2ちゃんねる側は責任を負うとお考えですか?
 「精神異常」との発言の削除を求めるために、被害者自ら精神病院に通って「精神異常ではない」との診断書を作成してもらってそれをひろゆき氏に提出すべきだったのでしょうか。
 「ヤブ医者」「動物実験」などの発言の削除を求めるためには、それまでの診療記録の全てを証拠として提出すべきだったのでしょうか?

町村: プロバイダ責任制限法の免責事由は反対解釈しないということになっているので、3条2項の免責事由に該当しないからといって、直ちに損害賠償責任を負うというものではないわけです。
 契約上検閲を厳しく行うポリシーを立てることは違法ではないし、そのようなプロバイダを選択して契約した利用者は過剰防衛的な削除をされても、まあ仕方がないでしょう。契約の目的を達することができないとまでいえるのであれば別ですが。
 「放置しておいても何のお咎めもなし、だったら放置するのが合理的ですね。・・・」ですが、そのようなポリシーのプロバイダがいるであろうことは認めます。しかし経済的に放置する方が合理的だとはいえないでしょう。企業イメージとか提訴リスクとかがありますから。
 その他、レイプを否定するのにこれまでの性経験を全部列挙して・・というのは極端な話で実際的ではないし、新聞と同じだというのは新聞社はまさに事前に編集をしているのだからプロバイダと違います。
 個別的に見ていけば、名誉毀損は明白で、真実かどうか考慮するまでもない、という発言もあるでしょう。公益を図る目的とはどうしたっていえない単なる罵詈雑言とか。「誰某はくさい」とか「包茎短小だ」とか。
 そうでない場合に、もともと契約関係のない当事者間では交渉に応じる義務だってないわけですから、2ちゃんねる運営者に削除要求が受け入れられなければ、法的手段を通じて削除を求めるというのが筋です。
 仮処分の保証金については、削除というのが送信可能な領域から抹消してファイルとして保管するということを意味するのであれば、後に本案で覆されたときの担保という趣旨からして、せいぜい10万円とかが妥当でしょう。

小倉: 本来送信されるべきものがされないわけですから、免責が得られないのであれば債務不履行になりませんか?
 提訴リスクがあるということですが、提訴リスクなど、棄却判決が続けばどんどん薄れていきます。
 町村説のように、当該プロバイダ等が、社会的信用の低下をもたらす発言がホームページや掲示板等に掲載されているというだけではプロバイダ等に削除義務が発生しないとすると、仮処分や本案訴訟などにより当該発言の削除を求めるに際しても、当該発言者の発信者において真実性の抗弁及び相当性の抗弁が成立しないことを主張・立証しなければならないということになるように思うのですが。そして、そのような主張・立証を被害者が行うことは不可能なわけですから。
 「レイプを否定するのにこれまでの性経験を全部列挙して・・というのは極端な話で実際的ではないし」とのことですが、「私はレイプなどしたことがありません」という陳述書一本で済むとするか、これまでの性経験を全部列挙して・・・ということを行うか、どちらか極端な話にしかならないと思うのですが、匿名の発言による「私は、○○にレイプされました」という発言が真実ではないと言うことを被害者が立証するためには。(町村さんとしては、どういう立証をすればよいと思いますか?)
 また、「新聞と同じだというのは新聞社はまさに事前に編集をしているのだからプロバイダと違います。」とのことですが、「証拠との距離」「私的検閲」という観点からは、大差ありませんね。
 それに、交渉に応ずる義務云々という問題ではなく、他人の名誉を侵害する発言を送信したことの責任ですよね。
 せいぜい10万円とおっしゃいますが、10万円って大金ですよ。

小倉: 結局、町村さんの判例評釈を読んでわからないのは、真実性・相当性がないことの証明がなくとも、プロバイダに対する差止請求権はあっさり認めてしまうのに、損害賠償請求権はガンとして認めないというところですね。
 「真実性の要件を満たさないこと」が削除義務の要件ならば、「故意・過失」を要件としない差止請求の場面でも、「真実性の要件を満たさないこと」を削除義務の要件としなければ論理的に一貫しないですね。
 社会的評価を低下させるような発言であれば、「真実性の要件を満たさないこと」という要件が具備されていなくとも、(差止請求の前提である)削除義務が認められるというのであれば、損害賠償請求の要件たる「故意・過失」は、プロバイダ等として当該情報を発信することにより当該被害者の社会的評価を低下させることについての「故意・過失」というふうに構成せざるを得ないと思うんですよね。
 まあ、町村さんが、「問題の発言が客観的に名誉毀損と判断できるのであれば、その差止めを認めて良い」といっている場合の、「客観的に名誉毀損と判断できる場合」というのが理解できていないだけなのかも知れないのですが。他人の社会的評価を低下させるものであるということだけでなく、真実性・相当性の要件をも満たさないということを「名誉毀損」という概念の定義に盛り込んでしまった場合、「客観的に名誉毀損と判断できる」というためには、少なくとも、当該発言の内容が真実でないことまでは求められてしまうのではないかというふうに論理的に危惧してしまうわけです。
 そうすると、そこで結論付けられるプロバイダと被害者の利益バランスというのは、動物病院事件地裁判決のそれと比べても、極めて問題があるのではないかと思うのです。

山内: 恥ずかしながら民訴がよくわかっていないということもあり(^^;)、 お二人の議論はまだ消化しきれていないので、自分なりに整理してみました。
 判例の詳細な分析もしていませんが、とりあえずの叩き台として披瀝してみようと思います。

1、価値判断の点

 (1) プロバイダなり掲示板管理者側の立場に立って考えると、「自分が名誉毀損行為をしたわけでもないのに、どうして他人のケツをふかにゃならんの?」という価値判断が働きます。
 そして、政策的に考えても、情報な自由な流通のためにはプロバイダの責任はなるべく軽減する方がいいという考えになるでしょう。

 (2)逆に、名誉を毀損された第三者にとってみれば、「自分が管理する掲示板で他人を誹謗中傷する無責任な発言がされているのに、それを放置する管理者などけしからん」、とか、「管理者に削除してもらわんとどうしようもないやないか」、という価値判断が働きます。
 政策的に考えても、情報の自由な流通の反対利益である名誉やプライバシーの保護に対する考慮をしないと、却って自由な情報の保護に消極的な風潮が出てきてしまう、という考えも成り立つでしょう。

 (3)前者の価値を尊重するとプロバイダに名誉毀損を成立させにくい法律構成をしたくなりますし、後者の価値を尊重すると名誉毀損を成立させやすい法律構成をとることになるのでしょう。

2、義務主体に関して

 (1)今までの議論では一般のプロバイダと掲示板管理者、もっと具体的に言えば2ちゃんねる管理者が同一のものとして議論されてきたように感じますが、それにはちょっと疑問があります。
 つまり、一般のインターネットサービスプロバイダとかBBS管理会社とか、サービスというかインフラというか、そういうものを提供するだけの主体に認められる義務は軽減されるべきであるし、逆に、掲示板管理者のように具体的な情報の流通を左右する地位にある場合は、あくまで前者との比較においてでありますが、より重くなるのではないかと考えます。

 (2)ISPなどはあくまで手段を提供するだけであって、表現内容に関しては基本的に負わないとすべきと考えます。
 自動車事故で毎年1万人ほどの人が亡くなっていますが、自動車販売業者が自動車を販売したという事実だけで責任を問われることはありませんが、それと似たような感じで。
 情報流通という社会的に有用な行為を行っており、社会はそによる利益を享受しているのだから、それに対する危険はある程度甘受すべきであるということで、「許された危険の法理」がちらちらと頭をかすめます。

 (3)掲示板管理者などはより直接的に表現の方向性を左右でる地位にあります。
 わりと積極的に介入するとか、適当に野放しにするとか、管理者の個性によっていろいろな管理スタンスがありますが、実際問題として管理者の態度がその表現の場の方向性を多かれ少なかれ左右できるということは否定できないでしょう。
 管理者の管理行為というのは表現の場を自己の望む方向に形づくるという意味で、広い意味での表現行為であると考えられます。
 表現者が自己の表現について権利を有し責任を負うのと同じ意味で、管理者の管理行為につき権利及び責任が発生するものと考えます。

 (4)両者の区別は微妙ですが、表現行為を左右できるか、あるいはそうすることが社会通念上期待されるかで、個別具体的に判断するしかないでしょう。
 詳細は次項に。

3、損害賠償義務の主体と作為義務

 プロバイダないし管理者は、名誉毀損的発言を放置したことでにより損害賠償の請求を受けるので、損害賠償が認められるには、一定の行為(削除に限らず、名誉回復をするに足りる相当な行為などを含むでしょう)をしなければならない義務、すなわち作為義務が必要です。 作為義務の発生根拠につき刑法の議論を参考に考えてみるのですが、一番本質的なところは「結果支配可能性」というところでしょうか。
 その人が何をしたかしなかったか(先行行為)、するかしないかによって結果が左右される地位にあるということです。

 (1)プロバイダの場合は、インフラを提供した点、単に技術的に削除をすることができるという点のみをもって、結果支配可能性があったとする、つまり作為義務ありとするのは妥当でない気がします。
 価値判断としては、前述のような許された危険の法理の発想です。
 法律構成としては、作為義務が発生しないともできるし、違法阻却とすることもできるでしょう。

 (2)掲示板管理者の場合は、具体的に発言できる場を提供した点、名誉毀損的発言を誘発するような場を形成した点、発言に近い場所におり管理者という地位から発言を方向づけやすい点、匿名掲示板においては被害者が加害者に直接責任を追及するのを困難ならしめる点、などを考えると結果支配可能性が強くあり、作為義務が認められやすくなるのではないかと思います。

 管理者が発言内容につき、公共性・公益性・真実性があると信じた場合については、管理者の場合には発言者のような資料に直接アクセスできないので、従来の判例理論はえないですね。
 そこで、ちょっとアレンジしてみたのですが、「"文面上"公共性・公益性・真実性があると信じるのが相当だと思われる場合」に故意・過失がないとするのはどうかなぁと思ってます。
 あるいは、端的にプロバイダ責任制限法3条1項2号の「他人の権利が侵害されていることを知ることができると認めるに足りる相当の理由」がないとして免責するのが適当でしょうか。
 総務省の出した逐条解説を読んでいるのですが、公共利害・公益目的でないことが明らかでない場合には「相当の理由」があるとしていますし、逆に、プロバイダに与えられた情報だけでは違法性の判断ができない場合には「相当の理由」はないとされています(12頁〜13頁)。
   http://www.soumu.go.jp/s-news/2002/020524_1.html

4、削除請求の相手方

 名誉権は人格権とされています。
 人格権っていうのは実はよくわかってなくて(^^;) 、私の理解では「物権的請求権の人間版」だったりするのですが、そうだとすると削除請求の相手方は不法行為者以外にも認められてしかるべきだと思うのですが、いかがなもんでしょう?
 すなわち、プロバイダに不法行為が成立していなくとも、人格権に基づき削除請求を認めるとするのです。
 民法723条の枠外にはなりますが、直接の不法行為者以外でも人格権たる名誉権の侵害を継続させられる地位にあることを考えると、人格権の効果として認められてもいいように思います。
 ちょうど盗品が事情を知らない第三者の下にある場合、その第三者に不法行為が成立しなくても返還請求できるのと同じような感じです。

 作為義務=削除義務として、削除義務がある場合にのみ削除が認められるとすれば、削除義務が認められるのに損害賠償請求が認められないのはおかしいってことになりそうですが、このように解すれば、プロバイダに削除請求は可能だけど、損害賠償までは認めない、という解決は可能だと思います。

5、以上、冒頭に示したようにプロバイダの責任については二つの一見矛盾する価値判断にがあるのですが、両者ともそれりにもっともな点があるので、両者を両立させることができるような方策をさぐってみました。
 あくまで試論にすぎず、勉強不足なところもありますので、ご指導・ご批判下されば幸いです。

小倉: 「1.価値判断の点」についてですが、プロバイダにせよ、電子掲示板管理人にせよ、P2Pファイル送信システムの中央サーバ運営者と違って、包括的なフィルタリング責任を負わされているわけでもないんですよね。具体的な権利侵害情報が自己の運営するシステムを介して公衆に送信されているのを具体的に認識していながら、しかるべき措置を講じなかったことについて、責任を負わされているわけです(動物病院事件でも裁判所は、2ちゃんねるの削除ガイドラインが「しかるべき措置」にあたるかを吟味しているわけで。あれに関していえば、私も「しかるべき措置」にはあたらないと思うのですよ。)。というわけで、プロバイダ等は自分が名誉毀損行為をしたわけではないと思っているのかも知れないのですが、裁判所は、プロバイダ等が自ら名誉毀損行為を(不作為により)行ったという構成をとっているわけです。
 ただ、ファイルローグ事件仮処分決定では、手段を提供しただけの中央サーバ運営者がユーザーによる送信可能化、自動公衆送信、複製の主体と認定されており、また、この件について解説や評釈を行う研究者たちはことごとく手段を提供しただけの中央サーバ運営者は、ユーザーによる著作権・著作隣接権侵害により生じた損害を賠償する責任があるといっています。「具体的な権利侵害情報が自己の運営するシステムを介して公衆に送信されているのを具体的に認識している」ISPや掲示板管理者は、当該権利侵害情報についてのコントロール可能性は、ハイブリッド型P2Pファイル送信システムの中央サーバ運営者よりも高いように思います。
 「3、損害賠償義務の主体と作為義務」についてですが、町村さんにしても、損害賠償請求の前提としての削除義務と、差止請求の前提としての削除義務と別のものとして捉えている(前者の存在を否定しつつ、後者の存在を肯定しても矛盾はない)と捉えているような気がするのですが、そんな都合の良い解釈ができるのでしょうか。もっといってしまうと、差止請求の前提としての削除義務がありながら、作為義務の前提としての削除義務がないということがありうるのでしょうか。
 都立大学事件地裁判決では、「名誉毀損文書に該当すること、加害行為の態様が甚だしく悪質であること及び被害の程度も甚大であることなどが一見して明白であるような極めて例外的な場合」にはあたらないとして、掲示板管理者に対する損害賠償請求を棄却したわけですが、同時に、掲示板管理者に対する名誉毀損発言の削除請求も棄却しているわけです。
 実際、損害賠償請求訴訟であろうと名誉毀損発言削除請求訴訟であろうと、当該発言者から真実性を裏付ける資料の提供を受けられない限り、当該発言が真実性の抗弁を満たすことをプロバイダや掲示板管理者が立証することが困難であることには変わりはないし、真実性の抗弁を満たす発言について損害賠償責任は負わないが削除はしなければならないというのもおかしいですから、「故意・過失」に関する部分以外は、別に解する必要はないように思います。
 ですから、「私は、○○にレイプされました」という発言が、真実性の抗弁を満たさないことを立証できない限り、このような発言がなされていることを具体的に知りながら削除等の措置を講じない掲示板管理者等が損害賠償を負わないのだとすると、真実性の抗弁を満たさないことを立証できない限り、「私は、○○にレイプされました」という発言の削除を仮処分や本案訴訟で求めることも許されないということになりそうです。

町村: とにかく私はプロバイダ自身が名誉毀損をしているという構成を採っていませんので、その点で既にすれ違いです。
 それはともかく、作為義務の履行を求める場合とその作為義務違反に基づく損害賠償責任を求める場合とでは、要するに故意過失を問うかどうかという違いがあるので、損害賠償責任は成立しないけれども作為命令は出せる、という場合があり得ると考えています。
 だから、削除義務自体は条理上認められる場合(従って削除を命じることはできる)でも、義務違反による損害賠償責任は過失があったとはいえないとして(期待可能性?)成立しないということがあり得るわけです。

小倉: 差止請求の場合被告側に故意・過失が不要であるのに対し、損害賠償請求の場合被告側に故意・過失が必要であるから、差止請求が認容されても損害賠償請求が認容されない場合がありうるということには反対しないのですが、町村説の場合、そこにとどまらないような気がします。

条理上の作為義務の内容が、

「他人の通信を媒介する者は、その通信の内容が第三者の社会的評価を低下させるものであることを具体的に知った場合には、削除等の措置を講じなければならない」

というものだったとした場合、「被害者と主張する者」からの削除要求などにより、具体的に通信内容を知った場合、それが第三者の社会的評価を低下させるものであるということは通常判断できるわけですから、それにもかかわらず、削除等の措置を講じなかった場合には、故意又は過失が認められることになろうかと思います。

逆に、条理上の作為義務の内容が、

「他人の通信を媒介する者は、その通信の内容が第三者の社会的評価を低下させるものであることを具体的に知り、かつ、それが真実性の抗弁を満たさないものであることを知った場合には、削除等の措置を講じなければならない」

というものであったとする場合、差止請求が認容されるためには、原告の側で、当該通信内容は真実性の抗弁を見たなさいものであることを主張・立証しなければならないことになろうかと思います。
 なお、ここでは、プロバイダ等に求められているのは発言を削除することであって、発言内容の真実性を証明することではないので、期待可能性の理論の適用はないような気がします。

田中: 小倉さんの先の発言の中で「プロバイダにせよ、電子掲示板管理人にせよ、P2Pファイル送信システムの中央サーバ運営者と違って、包括的なフィルタリング責任を負わされているわけでもないんですよね。」とおっしゃってますが、プロバイダや電子掲示板管理人が包括的フィルタリング責任がないのと同じように、上記中央サーバ運営者だからといって直ちに責任が生じるわけではなく、その「性質」によって個別的に判断される、ということですよね。
 たとえば、電子掲示板の目的が健全な議論の場であるとの性善説的な考えをすれば、例外的に権利侵害があれば削除などしなければならない、ということで、はじめからプライバシーの暴露合戦が主目的になる蓋然性が高かったりすれば、電子掲示板管理者とて包括的フィルタリングが要求されるべきではないでしょうか。(法令は別として)
 また、「ただ、ファイルローグ事件仮処分決定では、手段を提供しただけの中央サーバ運営者がユーザーによる送信可能化、自動公衆送信、複製の主体と認定されており、また、この件について解説や評釈を行う研究者たちはことごとく手段を提供しただけの中央サーバ運営者は、ユーザーによる著作権・著作隣接権侵害により生じた損害を賠償する責任があるといっています。」とおっしゃってますが、「手段の提供だけ」というと、なんとなく、その手段を使用した結果の責任は使用した人に帰結するようなイメージがわきますが、たとえば、電力の不足している国に、原子力発電に使えるようにプルトニウムなどの原料の提供と併せて、その使用方法のマニュアル一式もつけたとします。で、マニュアルの中に原子爆弾の製造方法も詳細に書いてあったりすると、ちょっとマズイかなぁ〜と思います。
 ではどうすればよいかというと、原子爆弾に転用しないように、原料の提供には定期的査察をセットとするとか、、の方法を考えればいいのではないかなぁ などと思うのですが。。。

小倉: まあ、包括フィルタリング技術が普及するまでは、市民が自由に情報発信をするシステムは運営を停止すべきだという考え方もあり得ますね。もちろん、自動売買春の手段として用いられることを未だ防止し得ていない携帯電話など、防止措置が開発されるまで、禁止するのが筋でしょうね。

田中: いえいえ、携帯電話は売買春以外でも結構役にたちますよ。現に私は携帯電話を売買春目的で使用したことはありませんし、そのような目的で使用している友人もまわりにいなかったりします。
 一方、ソープなんとかとかいうお店にいったとすると、普通は違法行為が目的だったりするようですし、お店がいくら「従業員に違法行為はさせませんし、そのような要求はしないでください」と叫んでみても、やっぱり違法行為がなされているとみるのが自然だったりしませんかねぇ。
 ですから、単に「お話」だけがしたくてソープなんとかへいく人が多少はいるとしても、だからといってソープなんとかが営業の自由であちらこちらに開店されては困ると思うのですよ。

小倉: ファイルローグやグヌーテラのような汎用型P2Pファイル送受信システムというのは中立的な性質を持っているのに対し、ソープランドは中立的ではないので同列には扱えないでしょう。
 ドイツでは、中立的行為の幇助性というのが1つの論点として認識されているわけですが、日本ではあまり議論がないまま(って、最近の刑法総論の基本書読んでいないのですが、論点になっていないですよね。

田中: 分散型の場合、内容的にかたよりがあっとしてもそれは結果であり、手段としては中立ということができるかもしれませんが、管理型(中央型)の場合、結果として偏りがあれば、やはり管理責任みたいなものが発生してしまって、放置したまま、「手段としては中立だ」といいつづけるのは妥当ではないような気がするのですが。
 ですから、中立な手段を提供するだけであっても管理・支配があれば結果責任が及ぶ主体となる、って判断だったという理解でよろしいのでしょうか。

小倉: 中央サーバといっても、クライアント・コンピュータがサーバ・コンピュータと接続すると同時にサーバコンピュータに送信する大量のカタログデータ(共有フォルダに蔵置されているファイルに関するものに限りますが、それだって何百、何千の単位になります。)をもとに自動的に刹那的なファイル情報データベースを作成し、提供しているだけですから、結果についてコントロールを及ぼしているわけではないのです。
 なお、ファイルローグ事件仮処分決定で、債務者(日本MMO)に管理・支配性があるとしたのは、債務者の提供するサーバ・コンピュータを介してファイル送受信をするには債務者の提供するクライアント・ソフトを使用しなければならず、他方、債務者の提供するクライアント・コンピュータを使用してファイルの送受信をするには債務者が提供するサーバ・コンピュータにアクセスしなければならないこと、ならびに、債務者が提供するファイル交換サービスは使い勝手が良く、債務者の開設するウェブサイトには使い方の説明が書いてあること等の事情が認められたからであり、債務者において、その提供するファイル交換サービスにより送受信できるファイルの種類等をコントロールする力があるからではありません。
 このようにファイル交換システムの場合、ハイブリッド型であっても、そもそもフィルタリングする能力なんてものはないのにもかかわらず、フィルタリング義務を課せられてしまったものですから、サービスそのものを停止するしかないんですが、元東京高裁判事である牧野利秋さんからは、「権利侵害行為が行われている場合、この権利侵害行為のみを停止する技術的手段がないということから、侵害者が差止請求に服さなくとも良いとの結論は生じえないと考えられる」(「ファイル・ローグ事件仮処分決定と複数関与者による著作権侵害(下)」NBL751号51頁などといわれてしまっています。
 プロバイダ責任法による免責規定は、差止請求には及ばないとするのが通説ですから、そうすると、JASRACは、各プロバイダに対し、著作権侵害情報の送信を停止せよという差止請求を行うことができ、当該請求を認容する判決が確定したにもかかわらず、プロバイダ・サービスを中止しない業者に対しては、著作権侵害情報がアップロードされているのを発見するごとに、間接強制金の支払いを求めることができるようになりそうです。そうなると、音楽著作権に関しては、プロバイダ責任法3条1項の免責条項などあってなきがごとしですけど、プロバイダ側は、ファイルローグ事件仮処分決定に対して、何もコメントすら発表しないんだから、ある意味で自業自得といえなくはないですね。
 大阪FLマスク事件の時だって、ダイヤルQ2事件に対し反対する学説がほとんどなかったのが響いてしまったわけで、建前上判例報告ではない日本でも、おかしな判例・裁判例は、定着させないような不断の努力が必要なんですが、何かそういう意識は薄いですね。

田中: 同じように、「売買春行為がケータイを利用して行われていて、この行為のみを止めさせる方法がないからといって、売買春手段を放置していいということにはならない(だから、携帯電話サービスは止めるしかない)」とは、牧野さんはおっしゃらないでしょう。
 上記牧野さんの(上)によれば、「設置者の意図・目的の下に・・・・」とあり、また、「逆の面からいえば、設置者が著作物利用行為をやめさせることができる手段をとることができ、これをする事実上の権限を有してる」と書かれてますが、上記売買春手段を意図・目的としたものではないにもかかわらず、中にはそういった使い方もされるケータイ電話であるのか、ケータイ電話というものはNTTが売買春手段としての使用を意図・目的しているかと思うかの違いだったりするのではないでしょうか。
 そうなってくると、結構主観の問題なのかなぁ〜
 そういえば、インタネットを数年前にはじめたときは、結構エロサイトを覗いたりしましたが(汗)、最近は全く見なくなってしまいましたしぃ、、。
 ただ、歳とっただけだたりして、、(笑)

小倉: でもですね、ファイルローグ事件の仮処分決定では、設置者の意図・目的は、「利用者によって実際にそういう利用がなされている」というところから推認されてしまっているわけです。実際には、MP3なんて全然眼中になかったわけですけど(市販音楽のMP3ファイルをターゲットにするならば、アーティスト名と曲目とでAND検索がかけられる程度の仕様にはするわけなんですが。全く、燕雀には困ったものです。)。
 それに、「逆の面からいえば、設置者が著作物利用行為をやめさせることができる手段をとることができ、これをする事実上の権限を有してる」ことが日本MMOに負わせる根拠にっているのだとすれば、「権利侵害行為のみを停止する技術的手段がない」という点は、この根拠を根底から覆すものであるはずです。著作物利用行為に利用されることだけを阻止できるのに阻止しないというのと、著作権侵害行為に利用されることを阻止するためには、著作権侵害行為にあたらない他の用法に利用されることも中断しなければならないというのでは、「著作物利用行為に利用されることだけを阻止しなかったこと」の意味合いが全く違うと思うんですけどね。
 まあ、サービスそれ自体を停止してしまえばこのサービスを介しての著作物利用行為をやめさせることはできるし、それをする事実上の権限はあるわけですが、それを言い出せば、何だってそうですね。
 携帯電話各社だって、サービス自体を停止してしまえば、携帯電話を介した犯罪や不法行為をやめさせることができるわけですし、携帯電話各社には携帯電話事業から撤退する事実上の権限はあるわけですから。

崎山: 法的な問題はともかくとして、インターネット協会が携帯電話キャリア各社に「出会い系サイト」の存在を口実に検閲ソフト*1の導入をもちかけているという嘆かわしい話はあります。

*1
検閲ソフト: インターネット協会の場合
http://www.jca.apc.org/~sakichan/censorware/IAJapan/
Censorware funded by the Japanese Government
http://www.jca.apc.org/~sakichan/censorware/IAJapan/index-e.html

小倉: ISPにせよ、ハイブリッド型P2Pの中央サーバ管理者にせよ、ユーザーが発信する情報の内容にかかわらず、情報通信サービスを行います。
 その意味で彼らは中立的です。
 しかしながら、ユーザーが発信する情報がJASRACの管理する音楽著作権を侵害するものであった場合、ISPや中央サーバ管理者こそが、自動公衆送信ないし送信可能化行為の主体だと認定されます。刑事法的にいえば、正犯です。もちろん、刑事法的には「故意」が必要なのですが、JASRAC側は、そのシステムが音楽著作権を侵害するファイルの送受信に利用されているという認識があれば、どのファイルが、誰の、どの管理著作物に関する著作権を侵害しているのかという具体的な認識がなくとも、「概括的故意」が認められると主張しています。本案訴訟の方で裁判所がこの論理を認めた場合、ISPも故意により主体的に自動公衆送信行為を行ったものであるということになりますから、刑事法的には、著作権侵害罪の正犯ということになります。
 もともとは、殺人現場まで犯人を連れて行ったタクシー運転手とか、法律相談で「それは違法ではない」と答えてしまった弁護士が幇助犯として訴追されたときにどうするのかという議論だったのですが。

町村: さて、「他人の通信を媒介する者は、その通信の内容が第三者の社会的評価を低下させるものであることを具体的に知った場合には、削除等の措置を講じなければならない」

「他人の通信を媒介する者は、その通信の内容が第三者の社会的評価を低下させるも>のであることを具体的に知り、かつ、それが真実性の抗弁を満たさないものであることを知った場合には、削除等の措置を講じなければならない」

このように分けると分かりやすいですが、仮に前者の立場に立つとすると、別スレで過去ログがあればMLも掲示板と一緒だといわれているので、このILCの発言なども相当、削除等の措置を講じなければならなくなります。
 かくして基本的には後者の立場に立つわけですが、真実性の抗弁だけが問題となるわけではありません。
 「他人の通信を媒介する者は、その通信の内容が第三者の社会的評価を低下させるものであることを具体的に知り、かつ、それが第三者の権利侵害につながる蓋然性および程度と削除による通信媒介者および発信者側の不利益との相関関係から違法と評価できる場合には、削除等の措置を講じなければならず、故意または過失により削除しなかった場合は損害賠償責任を負う」 このように言い換えたいです。
 名誉毀損の違法性阻却事由は、被害の重大性や削除による不利益の重大性との相関関係の中で、例えば公共性等が認められる可能性のある事案であれば削除の不利益が少ないと評価できる場合ではなければ削除義務は生じない、という形で評価されます。
 真実性のないこと、真実と信じるについて相当の理由がないことが立証されなければ削除義務も認められないのではなく、真実かどうか分からない場合でも被害の重大性や削除の不利益の小ささを勘案して、削除義務を認めれば足りるわけです。
 そしてこうした判断は通常プロバイダには期待できないので、(明白な場合を除き) 客観的に削除義務ありとされる場合でも、少なくとも仮処分や本案訴訟において削除が命じられるまでは、義務違反の過失は認められないということになります。

小倉: ILCは幸い、今のところ大した嵐に遭っていませんが、「私は、○○先生にレイプされました。」という発言がなされた場合には、過去ログから当該発言を削除すべきではないでしょうか?
 それとも、○○が生まれてこの方レイプをしたことがないことを立証しない限り、削除しないんでしょうか?
 それと、2ちゃんねるなどの匿名掲示板上の発言についての「削除の不利益」というのはいったい何なのでしょうか。そしてそれは、町村さん的には、公共性等が認められる可能性のある事案であれば削除義務が生じないと評価される程度のものなのでしょうか。
 もしそうだとすると、現在、2ちゃんねるでは、何人かの弁護士(実名)について女性をレイプした旨の発言が実際に掲載されているわけですが、レイプなどの犯罪に関する事実は伝統的に公共性があるとされるものである以上、この弁護士たちは、これらの発言の削除を求めることはできないということになるのでしょうか(「削除義務が生じない」とすると仮処分や本訴で削除を求めることもできないということになりますし、ひろゆき氏に対して損害賠償請求を行うこともできないということになります。かくして、発言者が誰なのかを知ることができない2ちゃんねるにおいてはお手上げということになりますね。)
 北方ジャーナル事件最高裁判決の多数意見が提示した規範についてはいろんな考え方があるとは思うのですが、実体法上の差止請求権の有無に関して、一般的には刑法230条の2の規定の趣旨を参酌しながら、公職選挙の候補者又は公務員に関する評価批判に関するものについては、特に厳格な要件を設定するという構成をとっており、手続き的には、債務者の審尋を行うなどしてその目的が専ら公益を図るものであること及び当該事実が真実であることの立証を行う機会を与えることを原則としながら、債権者側の提出した資料によって、その表現内容が真実でなく、又はそれが専ら公益を図る目的のものでないことが明白であり、かつ、債権者が重大にして回復困難な損害を被るおそれがあるときは、債務者の審尋等を経ないでもよいとしています。
 動物病院の院長は、公務員でも選挙候補者でもありませんから、真実性の抗弁を満たさない限り、実体法上削除されるべき発言であり、そのような発言が自分が管理支配するサーバーや掲示板上に掲載されていることを知ったISP・管理人は、少なくとも「被害者」から削除を請求された場合には、削除等の措置を講ずべき義務を負うものというべきでしょう(発言者に連絡を行うことができる場合に、発言者に連絡して1週間くらいの期間を定めてその目的が専ら公益を図るものであること及び当該事実が真実であることの立証を行う機会を与えることは「措置」の内容として許容範囲内だと思いますが、匿名性を選択し削除請求がなされていることを知らされない立場におかれることを自ら選択した発言者については、その目的が専ら公益を図るものであること及び当該事実が真実であることの立証を行う機会を与えることなく、削除等の措置を講ずべきといえるでしょう。)。
 また、町村さんは「そしてこうした判断は通常プロバイダには期待できないので、(明白な場合を除き)客観的に削除義務ありとされる場合でも、少なくとも仮処分や本案訴訟において削除>が命じられるまでは、義務違反の過失は認められないということになります。」とおっしゃっていますが、仮に町村さんの基準を採用したとしても、プロバイダにはその判断が難しいから判断をしなくとも過失がないというのはおかしいのであって、プロバイダは削除義務がないと判断したが、裁判所は削除義務があると判断した場合に、削除義務はないとプロバイダが判断したことがやむを得ないと評価できる場合には過失がないといえるというのがせいぜいのところではないでしょうか。

藤本: たとえば説例として:
電子掲示板上の匿名者の発言ついての運営者に対する名誉毀損訴訟で、運営者が真実性の立証ができなくて敗訴し、損害賠償義務も確定してしまったが、その後に匿名者が現れ、名誉を毀損されたと主張する者との別訴で真実性の立証に成功して匿名者の勝訴が確定した場合に、運営者の救済手段はあるのでしょうか。真実性の立証は匿名者しかできなかったと仮定して。

町村: 実体的にも、手続的にも、運営者は誰にも負担の回復を求めることができなくなりますね。
 再審事由もなさそうだし、実体的に名誉毀損被害者に対して不当利得ということにもならないでしょうし。

小倉: 他人の掲示板において第三者の名誉を毀損する発言を行うにあたっては、掲示板の管理者が名誉毀損に基づく損害賠償義務を負わないように、真実性立証のための資料等を管理者に速やかに提供する義務がある(この場合、先行行為があるので作為義務は認めやすそうです。)のに、これを怠ったということで、不法行為に基づく損害賠償請求を行うということは考えられそうな気がします。
 もっとも、この問題は、電子掲示板上での名誉毀損に限らず、紙メディアでのそれにも共通して現れうる現象のようです。

町村: 繰り返しになりますが、削除により掲示板運営者や発言者に生じる不利益は、2ちゃんねるのような例では乏しいというべきでしょう。だから何人かの弁護士さんがレイプ犯だと言われているのなら、どんどん削除を求める仮処分を申請すればよいことです。公共性があったって、真実性・相当性が考慮要素から消えるというわけではありませんから。
 でもレイプ犯と呼ばれたらいつでも削除請求可能というわけでもないですよね。某都議のレイプ犯疑惑を議論したり抗議したりすることもできなくなっちゃいますからね。
 また、小倉さんが「仮に町村さんの基準を採用したとしても、プロバイダにはその判断が難しいから判断を>しなくとも過失がないというのはおかしいのであって、プロバイダは削除義務がないと判断したが、裁判所は削除義務があると判断した場合に、削除義務はないとプロバイダが判断したことがやむを得ないと評価できる場合には過失がないといえるというのがせいぜいのところではないでしょうか。」とおっしゃってますが、その「せいぜいのところ」で十分です。ただ、やむを得ないと評価できる場合をどれほど認めるかによって、結論が大きく変わってくるでしょうが。
 私は、プロバイダに個々の発言の真実性を調査する義務があるわけではないので、分からないものは分からないと評価するのもやむを得ないと考えているわけです。

小倉: 仮処分申請が認められるということは、実体法上の削除義務が認められるということですか?
 それはともかく、そこでいうところの考慮要素から消えるというわけではない「真実性・相当性」というのは、債権者の側で、真実性も相当性もないことを疎明しなければならないということでしょうか。
 動物病院事件の一連の発言のような反証が可能な程度の具体性のない名誉毀損発言について、真実でないことを疎明・証明するということは困難です。また、反証が可能な程度に具体的な発言であっても、匿名の発言者による発言というのは、発言者がいかなる資料に基づいてそのような発言を行ったのか、被害者の側には一切わからないのですから、相当性もないことを疎明するというのは、ほとほと難しいですね。
 やはり、泣き寝入りでしょうか。
 匿名の発言者による「私は、○○にレイプされました」という名誉毀損発言について真実性も相当性もないことを証明する方法として、例えば、町村さんは、どういうものを想定されますか。
 「でもレイプ犯と呼ばれたらいつでも削除請求可能というわけでもないですよね。 某都議のレイプ犯疑惑を議論したり抗議したりすることもできなくなっちゃいますからね。」については、反証可能な程度に具体的な事実を、その内容が真実であると真実に至った資料等とともに摘示すればよいですね。
 通常は、「こんなものは根も葉もない誹謗中傷だ。一日も早く削除せよ」との被害者からの抗議に対し、その発言内容が真実であることを示す資料がプロバイダ等の手許にはないのですから、プロバイダ等の手許にある資料から判断する限り、削除義務がないと判断すべき合理的理由はありませんね。特に、匿名の発言者の場合、最初から、反証の機会を放棄しているとすら言えるわけですから。
 といいますか、仮処分にせよ本案訴訟にせよ、裁判所にも個々の発言の真実性を調査する義務があるわけでもないのであって、その点プロバイダ等と大差ないわけですが、そこで「わからないから、放置!!」なんてことはできないわけです。わからないときにどう処理するのかという問題になるわけで、わからないときには、匿名の陰に隠れて、裏付け資料をちゃんと提示しない発言者の不利益に行動するという方が合理的ではないですかね。

町村: 実体法上の削除義務が認められるということです。
で、動物病院ケースでは、判タを読んでくれたのならお分かりのように、虚偽の誹謗中傷により名誉侵害という結果が生じる可能性が高く(というか正当な批判であることを示す証拠は十分でなく)、かつ個々の発言を削除してもプロバイダにとっては重大な不利益があるわけではなく、発言者には不利益が生じるだろうけどそれは匿名のまま根拠を示そうと思えば示せるのにそうしない以上甘受されるべきだと評価できるので、削除せよとの作為を命じてもやむを得ないと考えられます。

 裁判所とプロバイダは違います。
 でも、プロバイダが被害者の削除要求に対して名誉毀損となるかどうかを、入手した資料で判断しなければならない、そういう義務を課すと言うことが、まさしくプロバイダに私的裁判官の役割(私見的には私的検閲官)の役割を期待しているのだということがはっきりしたと思います。

小倉: しかし、プロバイダ等が被害者の削除要求に対して、入手した資料を基に、名誉毀損となるかどうかを判断することが「私的検閲」にあたるのだとすると、プロバイダ等が任意にその発言を名誉毀損だと判断して削除することも違法ということになりそうです。(なお、「検閲」によって不利益を被るのは、「検閲」によって表現の機会を制限される表現者であって、検閲を行うものではありませんから、私的「検閲」を行うかどうかがプロバイダ等の任意に委ねられているということは、私的「検閲」の違法性の有無を左右しませんね。) かくして、自分の名誉を毀損する発言が掲示板やウェブサイトに書き込まれてしまった人は、そのたびごとに弁護士に手数料を支払って仮処分の申請をし、保証金を支払わなければならないことになりそうですね。
 誹謗中傷発言をする方は、1つ削除されても、また別のプロバイダが提供する匿名サーバや別の業者が提供する掲示板、あるいは同じ業者が提供する別の掲示板やその掲示板内の別のスレッドに同じ内容を同じ表現のままで、あるいは若干表現を変えて書き込めば、またそのたびごとに仮処分申請をしないといけないわけですね。
 仮に供託すべき保証金の金額が1回あたり10万円だとしても、普通の人であれば、すぐに資金的に底をつき、もはや泣き寝入りするしかならなくなりそうですね。(なお、私のところに相談に来ているケースなどでも、有名人でも何でもない人について、インターネット掲示板上で根も葉もない中傷発言を繰り返しされていたりしますが、そういう人には何十万、何百万という負担は厳しいです。)。
 ところで、町村さんは、他人の著作権を侵害するような情報や、他人のプライバシー権を侵害するような情報についても、プロバイダ等に私的検閲を求めることは妥当ではないから、被害者からの削除要求に対してプロバイダや掲示板の管理人が放置していても何の問題もなく、被害者は、逐次仮処分を申し立てるべきだとお考えですか?
 そうなら、ファイルローグ事件仮処分決定についても判旨反対の評釈を書いていただいても良さそうなものです。あちらの場合、特定の文字列を含むファイル名をもつファイルについて、公表前に私的「検閲」することを、裁判所が中央サーバの管理者に命じているのですから。

町村: それは誤解も甚だしいですね。私的検閲が違法だと言ったつもりはありませんから。私的検閲行為を、それも過剰防衛的にしなければ損害賠償責任を負わされるという解
釈はよろしくない、と言っているだけです。プロバイダが自分の会員に対して契約に基づいて検閲官のように振る舞うことは、独占企業でもないかぎり、自由でしょう。
 保証金の件でも小倉先生の説では、同じ被害を受けるたびに同じ保証金を払って仮処分申請、ということになりそうですが、担保の要否は疎明の程度によっても違ってきますから。
 もちろん、続発する被害を一つ一つつぶしていくことの困難さや大変さを否定するつもりはありません。しかし、それは泣き寝入りということにはならないし、悪質なケースでは警察により取り締まりも有り得ます。
 プロバイダが、被害者と主張する者の要求にすべて応じることにすれば、話は簡単ですが、そのような役割を法的に義務づけるのは、やはりよろしくないと考えるわけです。
 プライバシーについては難しいですね。公人のケースでは、公人の範囲も含めて、判断は微妙ですし、やはり裁判所の命令を待って対処する道がプロバイダには許されているといいたいところです。
 明らかに公人とはいえない場合、あるいは公的な活動と無関係な自宅住所とか電話番号とか、センシティブ情報とか、個別に見ていくと、プロバイダが削除を求められて、応じなければ損害賠償、という範囲が広くなるでしょう。
 ファイルローグ事件についての著作権法上の問題点は別として、仮処分により権利侵害行為を阻止しようとして、認められた事件なのでしょう?

小倉: 「私的検閲」により不利益を被るのは、「私的検閲官」たるプロバイダではなく、「私的検閲」を受ける発信者(表現者)ですから、裁判所により当該発言が違法であるとの判断が下されていないのにプロバイダが当該発言を削除するのはけしからんということであれば、それがプロバイダの任意に基づくものであれ、基づかないものであれ、問題があるというべきでしょう。
 逆に、プロバイダが任意に削除しても問題がないのであれば、プロバイダに削除義務をおわせても、「私的検閲」としての問題はないということになります。
 しかし、疎明の程度というのは異なりようがないですね。
 せいぜい、別のところでも同じような発言があり、それに対してはすでに削除を求める仮処分決定を受けているということを疎明するくらいでしょうか。
 続発する被害を潰すには、一番いいのは、発信者情報の開示を受けて発信者自身に対して訴訟を提起することです。なぜなら、そのような名誉毀損発言を繰り返す人々の多くは、匿名性に守られているからこそそれができるからです。しかし、ほとんどのプロバイダは、当該発言について真実性・相当性がないことの証明がなされない限り、発信者情報の開示には応じられないと言ってきます。「私は○○にレイプされました」という発言をばらまいている人間に関する発信者情報の開示を求めるためには、過去の全ての性行為の相手方及びその同意の存在ならびにそれらの性行為以外の性行為の不存在を立証しなければならないというのが、プロバイダ側の見解でしょうね。それに、IPが表示されていない掲示板の場合、「被害者」からのIP情報開示に対して、掲示板管理者がIP情報を即時に開示するシステムが必要です。
 プロバイダや掲示板管理者に削除義務を負わせるというのは所詮は次善の手段です。
 でも、続発する被害に対し、逐一、仮処分申請を行い、保証金を供託する経済的なゆとりがなければ泣き寝入りという町村説的な社会よりはずいぶんとましです。
 なお、「被疑者不明」のまま刑事告訴をしても、警察が動くかどうかは、当事者の与り知らないところです。したがって、被害者保護のためには、民事的な救済手段が確保される必要があります。

「個別に見る」というのは、結局、「私的検閲」義務を課すと言うことになりませんか?

仮処分により「私的検閲」義務が課されたということです。

具体的な個々のファイルについて債権者の権利を侵害するものであるということを裁判所が認定したわけではありません。