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 判例落ち穂拾い
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第1回 【平成 5年(ワ)第73号 判決】



判決書

平成五年(ワ)第七三号 損害賠償請求事件

判 決
    福岡県久留米市諏訪野町一六〇四番地
    原告 丸山保太郎
    同県大牟田市**町**番地
    被告 破産者***
    右訴訟代理人 弁護士****
主 文
  1.  被告は原告に対し、金一〇万円及びこれに対する平成五年三月七日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
  2.  原告のその余の請求を棄却する。
  3.  訴訟費用は一〇分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
  4.  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。
事 実
    第一 当事者の求めた裁判

      一 請求の趣旨
       1 被告は原告に対し、金三〇〇万円及びこれに対する平成五年三月七日から支払  い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
       2 訴訟費用は被告の負担とする。
       3 仮執行宣言

      二 請求の趣旨に対する答弁
       1 原告の請求を棄却する。
       2 訴訟費用は原告の負担とする。

    第二 当事者の主張

      一 請求原因

        1 原告は栄善タイプライターの名称で印刷機器の販売を業とするものであるが、   昭和五三年一二月ころ、印刷業を経営していた被告から懇請され、昭和五九年三月ころまでの間に原告振出の約束手形六〇通(合計額面金額約三四八〇万円)を交付し、保証のため見返りとして、同一金額の六〇通の被告振出の約束手形を受領していた。

      2 被告は、昭和五九年四月二日手形不渡を出して倒産し、同月一八日福岡地方裁判所大牟田支部に自己破産の申立をなし、(同支部昭和五九年(フ)第二〇号)、同年六月一一日破産宣告がなされたが、昭和六三年七月二九日財団不足により破産廃止となった。

      3 被告は、その後免責の申立をなし(同支部昭和六三年(モ)第一二二号)、原告ら数名の債権者が異議申立をなしたが、平成元年一一月二七日破産債権の一・五パーセントを除き免責する旨の決定がなされた。

      4 原告と被告は、右決定に対し、福岡高等裁判所に抗告したが、平成二年三月一二日被告を免責する旨の決定がなされた。
      原告は、最高裁判所に特別抗告したが、却下された。

      5 被告は、右免責の審理中、以下のとおり原告について虚無の事実を主張あるいは供述して原告を誹謗中傷し、原告の名誉を著しく侵害した。
      (一)原告は、被告から懇請されて、いわゆる融通手形を被告に交付し、それと同額の手形を受領していたものであり、被告から利息を受け取ったことはないにもかかわらず、しかも、被告は、右事実を認識しながら、前記免責の申立事件の平成元年九月四日の審尋の際、原告は「日歩一〇銭」の高利で金銭を貸与していた、、融通手形の金額については金利が含まれた「トータル金額です」と虚無の事実を供述した。また、被告は、原告が被告に対し、高利で貸していたことを隠すために、被告の「帳簿の破棄」を依頼した旨虚無の事実を供述した。
      (二)被告は、前記免責の申立事件における上申書中に、原告が昭和五九年一二月二七日から昭和六〇年一二月ころまでの間前後一〇日被告方に行き、威迫行為を行った旨具体的に記載しているが、原告が被告方に行ったのは昭和五九年一二月二七日一回だけであり、取立行為をしたこともない。にもかかわらず、「暴力団の親分に委任することができる」旨原告が述べたなどと記載し、原告が暴力金融業者であるかのような印象を与えた。
      また、破産廃止の決定後である昭和六三年七月末ころから同年九月八日まで、原告が前後六回被告方で威迫行為を行った旨具体的に記載しているが、全く真実に反する。原告は、昭和六三年七月二六日、八月一日、九月八日に被告方に行ったが、破産廃止の決定後の時点で、被告の返済意志の有無を確認し、債権者らの刑事告訴の意向を伝えるために行ったのであり、威迫行為など行っていない。
      (三)(一)、(二)により、前記福岡高等裁判所の被告の免責決定の理由中において、原告は、「市中の金融業者」であり、被告が帳簿を焼却したのは高利の取得の発覚をおそれた原告らの依頼によるものである旨認定される結果となった。

      6 原告は、被告の5(一)、(二)の行為により名誉を毀損されたが、その損害は、金三〇〇万円を下らない。

      7 よって、原告は被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、金三〇〇万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成五年三月七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

      二 請求原因に対する認否

      1 請求原因1ないし4の事実は認める。

      2 同5,6の事実は否認する。
      (一)被告が裁判所において故意に虚無の事実を主張ないし供述したことはない。 (1) 被告は原告が高利貸しである、利率が日歩一〇銭であったと供述していないし、原告から帳簿の破棄の依頼を受けたとも供述していない。
      (2) 審尋調書(甲第二号証)には、原告が高利貸である日歩一〇銭であった、原告から帳簿の破棄の依頼を受けた旨の被告の供述が記載されているが、被告の供述を正確に再現したものとは限らないし、また、被告が裁判官の質問を誤って理解して、右のような供述をした可能性もある。
      (3) 原告は、昭和六〇年中に被告方に再三再四押し掛け、執拗に債権の取立をしようとした。
      (二) 原告の指摘する被告の供述は、審尋期日の調書に記載があるのみで、公然性を有しないものである。

    第三 証拠
      証拠関係は本件記録中の書証目録及び証人等目録のとおりである。
理 由
    一 請求原因1ないし4の事実は当事者間に争いがない。

    二 右争いのない事実と成立に争いのない甲第二ないし第四号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第一号証、原告、被告各本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認められる。

    1 被告は、前記免責の申立事件(福岡地方裁判所大牟田支部昭和六三年(モ)第一二二号)の平成元年九月四日の審尋の際、債権者一覧表を示されたうえ、「この一覧表で、あなたが高利で借りた債権者は誰々ですか。」との裁判官の質問に対し、他の債権者とともに原告の氏名を供述し、さらに、「利率は日歩一〇銭前後でした。」と供述し、「高利で貸し、税務署に発覚してはまずいということで帳簿を破棄するように頼んだ人は誰々ですか。」との裁判官の質問に対し、他の債権者とともに原告の氏名を供述した。
    なお、被告は、原告が高利貸である、利率が日歩一〇銭であったと供述していないし、原告から帳簿の破棄の依頼を受けたとも供述していないと主張しているが、甲第二号証の供述記載に照らし採用し難い。

    2 被告は、前記免責の申立事件における上申書に、原告が昭和五九年一二月二七日から昭和六〇年一二月ころまでの間前後一〇日被告方に行き、執拗に直接取立行為を繰り返し、被告の生活の平穏を脅かし、「暴力団の親分に委任することができる」旨述べたなどと記載した。
    また、破産廃止の決定後である昭和六三年七月末ころから同年九月八日までにも、原告が前後六回被告方で威迫行為を行い、債務の返済を執拗に迫った旨記載した。

    3 原告は、金融業者ではないし、被告から金利を受領したことはなく、被告の帳簿を破棄するように頼んだこともなかった。
    また、原告は、昭和五九年及び昭和六三年に数回にわたり被告方を訪ね、被告を詐欺罪で告訴する旨告げたりしたものの、被告に対し、原告の債権を強引かつ執拗に取り立てようとしたことはなかった。

    4 前記免責の決定に対する即時抗告事件(福岡高等裁判所平成二年(ラ)第五号)の決定書には、原告が被告に対し、日歩一〇銭程度の金利で融通手形の割引に応じて融資をしていたこと、原告が被告に対し、利息の支払状況を明らかにする帳簿の破棄を依頼したこと、原告が被告に対し、被告宅に押し掛けるなどして再三再四にわたり執拗に自分の有する債権の履行を直接求めたことが認定され、原告が市中の金融業者であるとの説示がある。

    三1 二1,2認定の被告の供述ないし記載は、印刷機器の販売を業としており、高利の金融業者ではない原告に対する社会的評価を害するに足りるものであることは明らかであり、右供述がなされた審尋期日には、破産債権者の出席はなく、右供述を聞いたのは、担当裁判官、担当書記官、破産者代理人に過ぎないとしても、審尋期日は、期日指定の決定が公告され、免責の効力を受くべき知れたる破産債権者に送達されているから(破産法三六六条ノ四第二項)、被告の供述は、本来一定の範囲で流布される可能性を有するものということができ、さらに、被告の右供述は、審尋期日調書として、右記載は、上申書として、前記免責申立の事件記録中に存在しているから、被告の債権者その他の利害関係を有するものの閲覧に供される可能性があるものと考えられる。
    また、被告が二1,2認定の供述ないし記載をした結果、二4認定の決定書中の認定、説示に至ったものと考えられるが(他に、右認定、説示に至るべき資料があったものと認めるべき証拠はない。)、右認定、説示も原告に対する社会的評価を害するに足りるものであること、被告の債権者その他の利害関係を有する者の閲覧に供される可能性があるものと考えられることは右と同様である。

    2 右によると、本件においては、被告が二1,2認定の供述ないし記載をしたことにより、原告の名誉を害する結果となったものと認めることができ、かつ、被告が当法廷において、右二1,2認定の供述ないし記載の内容となった事実がなかったことを大筋で認める旨の供述をしていることに照らすと、被告は、当時二3認定の事実を認識していたものと認めることができるから、二1,2認定の供述ないし記載が真実と異なることも知っていたものと推認することができる。
    よって、被告には、原告の名誉を害するにつき、故意(少なくとも過失)があったものと認めることができ、原告の被った精神的苦痛を慰謝すべき責任があるものというべきであるが(なお、他の損害が生じたと認めるべき証拠はない。)他方、二1,2認定の被告の供述ないし記載は、前記免責申立の事件記録の性質上、広く一般に流布される蓋然性は必ずしも高いものとは認め難く、広く一般に流布されたと認めるに足りる証拠もないこと、右のとおり原告が当法廷で原告の主張を肯定する旨の供述をしていること、その意味では、原告の精神的苦痛のかなりの部分は、既に癒されたものと認めることも可能であること、その他本件に顕れた一切の事情を考慮し、原告に対する慰謝料は、金一〇万円が相当である。

    四 よって、原告の請求は主文第一項掲記の限度で理由があるから認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
福岡地方裁判所久留米支部
裁判官 ***

福岡地裁久留米支部判決が実質的に事実認定を覆した福岡高裁の免責決定は下記のとおりです。

決      定

福岡県久留米市諏訪野町一六〇四番地

抗 告 人        丸   山   保 太 郎
右代理人弁護士       甲

福岡県大牟田市以下略
抗 告 人        破産者
右代理人弁護士       乙ほか2名

福岡地方裁判所大牟田支部昭和六三年(モ)第一二二号免責申立事件について、同裁判所が平成元年一一月二七日になした免責決定に対し、抗告人らからそれぞれ即時抗告の申立があったので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主      文

抗告人Yの抗告に基づき、原決定を取り消す。
抗告人Yを免責する。
抗告人丸山保太郎の抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人丸山保太郎の負担とする。

理      由
一 抗告人丸山保太郎の抗告の趣旨及び理由は別紙一記載のとおりであり、抗告人Yの抗告の趣旨及び理由は別紙二記載のとおりである。

二 当裁判所の判断本件記録によれば、次の事実が認められる。
1 抗告人Y(以下「破産者」という。)は、昭和一一年三月三〇日生まれであり、昭和四二年六月に現在の妻と婚姻し、昭和四四年生まれの長男と昭和四六年生まれの長女の二人の子供がいる。

2 破産者は、昭和二七年大牟田市内において個人でガリ版印刷による印刷業を始めたが、その後順調に発展し、昭和三七年には社屋を新築し、従業員も四〇名を超えるほどになった。しかし、その後福岡支店の新設に失敗し、放漫経営も重なって、借金が累積したため、昭和四〇年には右社屋売却するなどして一旦は債務を精算した。そして、その後、破産者は、大牟田市内に工場を借り受けて印刷業を続け、印刷業界の機械化の進展に合わせて、ほとんど借入金により、写真植字機、オフセット印刷機の導入等の設備投資を重ねた。このため、破産者は、昭和四二、三年ころから、資金繰りの必要のため、市中金融も利用するようになった。右設備投資にもかかわらず、不況や過当競争もあって、予想するほど売上げを伸ばすことができず、また破産者がPTAやライオンズクラブ等の営業外の職務を歴任したため、景気の動向や業務の採算等に十分考慮を払わず、無計画な借金をしたりして、借入金も漸次増加した 。破産者は、右のような苦しい状況にありながら、昭和五二、三年ころには 、全額借金により大牟田市内に土地を購入し、自宅を建築したこともあった 。破産者は、右の事情から借入金、金利の支払が増加し、印刷業の経営も苦しくなったが、依然として放漫、杜撰な経営を続けていた。(丸山注・事業が危機状態にあり倒産することを認識しつつ、名誉職を欲しがり、名誉職を利用して借金し、名誉職を維持するために浪費するの繰り返しで莫大な借金になったものである。)

3 破産者は、昭和五六、七年ころからは、年間金五〇〇〇万円ないし金六〇〇〇万円の売上げに対し、従業員の人件費だけで年間金一五〇〇万円ないし金二〇〇〇万円を要し、市中の金融業者に対する利息支払等にも年間金二〇〇〇万円ないし金三〇〇〇万円を負担するほか、売上げの低下、経費の増加等によりいよいよ赤字が累積し、さらに市中金融業者からの借入 、融通手形の振出などにより借金を繰り返すようになった。破産者は、前記のように全額借金で購入、建築した自宅、印刷機械等の動産のほか特段の資産はなく、このままでは倒産必至の状態であった。抗告人丸山保太郎は、右のように資金繰りに困った破産者に対し、日歩一〇銭程度の金利で融通手形の割引に応じて融資をしていた。また、破産者は、昭和五七、八年ころ、当時有明カントリークラブのゴルフ会員券の印刷を受注しており、自分も右会員となり金二二〇万円ないし金二三〇万円程払い込んでいたところ、資金繰りに困り、金額二五〇万円のゴルフ会員券を偽造して、これを担保に約金二〇〇万円を借り入れたことがあった。(丸山注・破産者の懇願により、無利息で貸したもの、丸山(抗告人)は陳述書で何度も無利息で貸したと記している。ゴルフ会員権を偽造して、それを担保に金融業者より借入れ刑事告訴されたが、これだけは返済したので不起訴になった。無利息で貸したものであり、帳簿の廃棄を依頼する必要性はまったくなし。)

4 破産者は、昭和五九年三月三一日、手形不渡りを出し事実上倒産したが 、その際、抗告人丸山保太郎を含む一〇名前後の債権者に対し、印刷機械等の財産を譲渡する旨の譲渡証を作成し、各債権者に郵送した。また、破産者は、かねてから高利で融資を受けていた抗告人丸山保太郎らに、利息の支払状況を明らかにする帳簿の廃棄を依頼されていたので、そのころ利息の支払を記載した補助簿を焼却するなどして廃棄した。もっとも、破産者は、その他の売掛帳、仕入れ元帳などはほとんど保管しており、これらの関係帳簿は全て破産宣告後に破産管財人に提出され、これにより破産宣告前の破産者の営業実態は概ね明らかにされ破産者は、補助帳簿を廃棄した後、家族を伴って夜逃げをした。 破産者は、一旦夜逃げしたものの、間もなく思い直して、大牟田市に戻り、債務の精算をすることとし、破産宣告の申立を弁護士に依頼するとともに、昭和五九年四月一三日印刷工場を閉鎖し、一〇名位残っていた従業員全員を解雇した。(丸山注・一番重要な金銭出納帳にあるか?あるなら丸山が無利息で貸したことが証明できるはず)

5 破産者は、昭和五九年四月一八日、負債総額約金一億五〇〇〇万円を抱え、支払不能に至ったとして原裁判所に破産宣告の申立をし、予納金として、同月一九日金五〇万円、同年五月二日金一六万二五八八円、同月八日金六万円を納付した。破産者の代理人は、右申立のころ債権者らに対し書面で右申立に関する意見聴取を行ったが、その結果によると、回答を寄せた二三名の債権者のうち右申立をやむを得ないとする者五名、不満があるとする者一〇名、特に意見を付さない者八名であった。 原裁判所は、同年六月一一日、破産者が八一名の債権者らに対し合計金一億五八一九万六四〇円の債務を負担し、支払不能の状態にあるとして、破産者に対し破産宣告をし、弁護士丙を破産管財人に選任した。

6 その後、昭和五九年七月一六日第一回債権者集会が開かれ、同月三〇日債権調査期日が開かれた。右債権調査においては、五五名の債権者からなされた債権届出のうち異議のあるものが合計金一三三四万二〇〇〇円、異議なく確定したものが合計金一億三〇八〇万四五七二円となり、抗告人丸山保太郎の届出債権、約束手形金三四八三万二三〇〇円、売掛金八万七八一二円はいずれも異議なく確定した。

7 管財事務の状況については、昭和六三年三月当時、収入は予納金の組入れのほか、売掛代金の回収金八〇万七四五〇円、動産売却代金二二万円の合計金一七三万二四五〇円であったが、右収入も管財費用、税金、破産管財人報酬を支払うと残りが全くなくなった。丙破産管財人は、右の事情から、同月一七日、破産廃止の申立をした。その後、同年七月二五日、原裁判所において破産廃止について意見を聴取するための債権者集会が開かれたが、抗告人丸山保太郎を含む出頭債権者から異議はなく、続いて破産管財人の任務終了を報告する債権者集会が開かれたが、右同様に異議はなかった。原裁判所は、右債権者集会の議を経て、同月二九日、破産財団をもって破産手続の費用を償うに足りないものとして、破産廃止の決定をした。

8 破産者は、昭和六三年七月二六日、抗告人丸山保太郎の債権を含む六六件、合計金一億五二一八万八七四三円の債権を内容とする債権者名簿を提出して免責の申立をした。破産者は、同年一〇月三日、債権者名簿(***の給料債権など二六件、債権額合計金六〇一万〇六六一円)を追加した。
原裁判所から破産者の免責不許可事由の有無について調査を命ぜられた丙破産管財人は、記録の検討、破産者との面接等の調査を行い、破産の原因は、破産者が財産隠匿とか自分の利益を図るとか、債権者を害するものではなく、また破産者の過怠によるものでもないとしたうえ、破産法三六六条ノ九所定の免責不許可事由は見当たらなかったと報告した。昭和六三年一二月一九日原裁判所において破産者審尋がなされ、八名の債権者が出頭したが、そのうち抗告人丸山保太郎外一名(平井注・丸山さんによれば実際は債権者拾数名で異議申立てを提出しましたが、裁判所の書記官より、代表2名にしてくれと要請され、改めて2名が署名して提出したとのことです)が破産者の免責について異議を述べた。そして、平成元年一月一一日抗告人丸山保太郎外一名から異議申立書が提出されたが、右異議の内容は、要するに、破産者が倒産直前までそのことを隠し、詐術を用いて多額の借金を重ねたこと、偽造したゴルフ会員券を担保にして借金をしたこと、倒産状態にありながら各種の役職につき、そのための借金を重ねたこと、商業帳簿を隠匿、毀棄したことなどである。
その後、原裁判所は同年四月一〇日、期日を開いて破産者及び異議申立人らの意見を聴き、さらに同年九月四日、同年一一月六日にも重ねて破産者審尋を行ったうえ、同月二七日、破産者に対し各破産債権の元金の九八 ・五パーセント及びこれに対する利息、損害金を免責し、その余の破産債権の免責は許可しない旨の一部免責決定をした。

9 破産者は、現在、大牟田市内にアパートを借りて、妻、二人の子供とともに生活している。破産者は、右アパートの一室で学習塾を開き、妻の手助けを得ながら経営しているが、毎月の粗収入は金四五万円程度、これから諸経費を差し引き金二七万ないし金二八万円の収入を得ている。二人の子供のうち、長男は大学入学のために浪人中で、長女は高専の学生である 。前記ゴルフ会員券の偽造の件は、その後告訴され、破産者も警察署、検察庁で取調べを受けたが、不起訴処分となった。抗告人丸山保太郎は、原裁判所において破産者に破産宣告がなされた後も、破産者に対し同人宅に押し掛けるなどして再三再四にわたり執拗に自分の有する債権の履行を直接求めている。
また、抗告人丸山保太郎は、前記のように破産者から譲渡を受けた(平井注・私が電話で確認したところ丸山さんはこの点を否認しております)財産を直ちに他に譲渡したが、破産者の右譲渡はその時期等からみて否認権の対象となるべきものであったところ、抗告人丸山保太郎がさらに他に譲渡したため、結局その追及がなされず、同人がその分利得するに至った。破産者は、破産に至った経緯について反省し、債権者らに対し申し訳ない気持ちをもっている。
以上の事実が認められる。

右事実によれば、破産者は、破産宣告がなされる二、三年前以降は、自分の経営していた印刷業の収入の二分の一にものぼる金額を借入金の利息の支払に充てざるを得ないという厳しい状況にありながら、市中の金融業者から高利による借入れ、融通手形の振出など安易な資金調達に頼る一方 、経費の削減等経営の改善に努めることもなかったばかりか、PTA、ライオンズクラブの役職等に従事し、印刷業の経営を十分に顧みることもなく 、徒らに借入金を増加させ、金一億五〇〇〇万円にものぼる負債を抱え、これを支払不能に至らせたほか、手形不渡りを出した昭和五九年三月三一日には、右の状況にあることを認識しながら、一部の債権者らに印刷機械等自分の財産を譲渡し、帳簿の一部を廃棄したものであって、破産者のこれらの行為は、破産法三六六条ノ九第一、二号所定の免責不許可事由に当ることが窺われるところである。ところで、破産者の免責は、破産終結後において破産債権者による破産者に対する無限の責任の追及を認めることは、破産者の経済的再起を著しく困難にし、ひいては破産者の生活にも破綻を生じさせるおそれがあるため、破産債権者の利害を考慮して適正な破産制度を運営するとの見地から 、債権者の右追及を遮断することによって、誠実な破産者に経済的再起の機械を与え、更生させる必要があることから、誠実な破産者に対する特典として認められているものであって、破産法三六六条ノ九も、右の見地から 、誠実な破産者の行為とはいえない行為を類型的に免責不許可事由として列挙しているところである。そうすると、破産制度における免責の趣旨、目的、破産法三六六条ノ九の規定に照らして、破産者が右免責不許可事由に当らない場合に免責すべきことはもちろん、破産者が右免責不許可事由に当る場合であっても、その事由の内容、債権者の意向、破産者の態度、生活状況等諸般の事情を考慮して、なお免責によって更生の機械を与えるべき誠実な破産者であると認められるときは、免責することができると解するのが相当である。これを本件についてみると、前記のように、破産者は、長年にわたり多額の債務につき支払が著しく困難であることを知りながら、なんら効果的な方策を講ずることなく、漫然借金を繰り返し、金一億五〇〇〇万円にも及ぶ負債を抱え、これを支払不能に至らせたものであって、これにより多数の債権者に重大な損害を与えたことは明らかであり、破産者のこのような行為は印刷業を営む者としての責任を忘れた杜撰、無責任なものであるといわざるを得ない。また、前記の帳簿の焼却、財産の譲渡についても、経営者、事業者としての基本的な義務を無視した違法な行為であることは明らかであり、このような一連の破産者の行為に対し誠実さに欠けるものと評価することも不当ではない。(丸山注・不満に思っている債権者は多数いる。免責に異議を申立てたのは出席者全員八名、焼却など依頼していない。財産譲渡はない。善意の無利息で貸した丸山が高利の金融業者など丸山の不利な部分は全部が事実と反対である。)
しかしながら、他方、破産者は、一旦は夜逃げをしたものの、前記のように予納金を工面して破産手続による適正な債務の整理を行ったこと、債権者の多くは破産者の破産宣告の申立について特に不満を抱いていないと考えられること、多数の債権者のうち破産者の免責に異議を申し立てたのはわずか市中の金融業者である抗告人丸山保太郎(平井注・この点が丸山さんが憤った最大の誤認です)外一名であること、破産者が前記帳簿を焼却したのは、高利の取得の発覚をおそれた抗告人丸山保太郎らの依頼によるものであり、他の帳簿は保管していたため、破産管財人の事務遂行に特段の支障は生じなかったこと、前記財産譲渡は抗告人丸山保太郎らになされ、同人は自分が譲り受けた財産を直ちに他に譲渡し、利得していること、破産者は、現在六二歳であり、その収入は家族生活をまかなう以上に余裕がないこと、破産者は破産に至ったことを反省し、債権者らに申し訳なく思っていることなど前認定の諸事情を考慮すると、破産者の行為が前記のように免責不許可事由に当るとしても、特に誠実さを欠く破産者であるとまでは断定し難しいところであって、前記免責制度の趣旨に照らすと、破産者を免責することによって今一度その経済的な更生の機会を与えることが相当であると解される。(丸山注・裁判所が破産者を免責にするため事実を見ず、丸山を高利の金融業者に仕立てあげ強引に破産者を完全免責にしている)もっとも、この点については、原決定のように破産債権のうち一定の割合を除いて免責し、除外部分を免責不許可とすることも現行法上不可能とはいえないが、前記諸事情の下においては、破産者を右のような限定を付することなく免責し、その経済的な更生を期待することが相当である。
ほかに破産者を免責不許可にすべき事情を認めるに足りる資料はない。

三 よって、抗告人Yを一部免責し、その余の免責を不許可にした原決定は相当ではなく、同人の抗告は理由があるからこれに基づき原決定を取り消し、同人を免責し、抗告人丸山保太郎の抗告は理由がないから棄却することとし、抗告費用は抗告人丸山保太郎に負担させることとして、主文のとおり決定する。

平成二年三月一二日
福岡高等裁判所第三民事部
 
裁判長   裁判官    A
    裁判官    B
    裁判官    C

   右は正本である。
平成二年三月一二日
     福岡高等裁判所第三民事部
裁判所書記官    D


なお、上記抗告の対象となった大牟田支部の免責決定は次ページのとおりです。


昭和63年(モ)第122号 決定へ