判例
平成九年(オ)第二一八号平成一〇年三月一三日第二小法廷判決
要旨:
 遺言公正証書の作成に当たり、証人は、遺言者による署名押印に立ち会うことを要する
内容:
件名
遺言無効確認等請求事件(最高裁判所平成九年(オ)第二一八号平成一〇年三月一三日第二小法廷判決、棄却)
原審
仙台高等裁判所

主    文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理    由

 上告代理人藏大介の上告理由第七の二及び三について

 民法九六九条に従い公正証書による遺言がされる場合において、証人は、遺言者が同条四号所定の署名及び押印をするに際しても、これに立ち会うことを要するものと解すべきである。けだし、同条一号が公正証書による遺言につき二人以上の証人の立会いを必要とした趣旨は、遺言者の真意を確保し、遺言をめぐる後日の紛争を未然に防止しようとすることにあるところ、同条四号所定の遺言者による署名及び押印は、遺言者が、その口授に基づき公証人が筆記したところを読み聞かされて、遺言の趣旨に照らし右筆記が正確なことを承認した旨を明らかにし、当該筆記をもって自らの遺言の内容とすることを確定する行為であり、右遺言者による署名及び押印について、これが前記立会いの対象から除外されると解すべき根拠は存在しないからである。
 原審の適法に確定した事実関係によれば、(1) 真鍋秀光は、平成三年七月一八日、仙台法務局所属公証人伊藤豊治に対し、本件遺言公正証書の作成を嘱託し、伊藤公証人は、同日午後六時ころから六時三〇分ころまでの間に、秀光の入院先の病室において、加藤久良及び近藤節子を証人として立ち会わせた上、秀光から遺言の趣旨の口授を受けて本件遺言公正証書の原案を作成し、これを秀光に読み聞かせたところ、秀光は、筆記の正確なことを承認して遺言者としての署名をしたが、同人が印章を所持していなかったことから、手続はいったん中断された、(2) 伊藤公証人は、被上告人が秀光の印章をその自宅から持ってきた後の同日午後七時三〇分ころ、前記病室において、近藤の立会いの下、再度筆記したところを読み聞かせ、秀光は、その内容を確認した上、これに押印した、(3) 右秀光の押印の際、加藤は、これに立ち会わず、病院の待合室で待機 していたが、待合室に戻ってきた伊藤公証人から、秀光の押印を得て完成した本件遺言公正証書を示されたというのである。
 右のとおり、証人のうちの一人である加藤は、秀光が本件遺言公正証書に押印する際に立ち会っていなかったのであるから、本件遺言公正証書の作成の方式には瑕疵があったというべきである。しかし、秀光は、いったん証人二人の立会いの下に筆記を読み聞かされた上で署名をし、比較的短時間の後に近藤立会いの下に再度筆記を読み聞かされて押印を行い、加藤はその直後ころ右押印の事実を確認したものであって、この間に秀光が従前の考えを翻し、又は本件遺言公正証書が秀光の意思に反して完成されたなどの事情は全くうかがわれない本件においては、本件遺言公正証書につき、あえて、その効力を否定するほかはないとまで解することは相当でない。してみると、上告人らの本件遺言無効確認等請求を棄却すべきものとした原審の判断は、結論において是認することができる。論旨は、結局、原判決の結論に影響しない事項についての違法をいうものに帰し、採用することができない。
 その余の上告理由について
 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り、右事実関係の下においては、上告人らの本件請求を棄却すべきものとした原審の判断は、是認できないではない。論旨は採用することができない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 根岸重治 裁判官 大西勝也 裁判官 河合伸一 裁判官 福田博)