判例
平成八年(オ)第二八〇号平成一〇年七月一七日第二小法廷判決
要旨:
 新株発行に関する事項の公示を欠く新株発行につき、新株発行差止めの事由がないとは認められず、無効原因があるとされた事例
内容:
件名
新株発行無効請求事件(最高裁判所平成八年(オ)第二八〇号平成一〇年七月一七日第二小法廷判決、破棄自判)
原審
東京高等裁判所

主    文

原判決を破棄する。

被上告人の控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。

理    由

 上告代理人大木章八、同藤村耕造、同伊藤信吾、同高橋温の上告理由第一点及び第二点について

 本件請求は、被上告人の株主である上告人らが、被上告人のした新株発行を無効とすることを求めるものである。原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 株式会社である被上告人は、平成三年三月当時、発行済株式の総数が二万株、資本金が一〇〇〇万円であり、その役員は、代表取締役が鈴木勉、取締役が鈴木勉の父である鈴木信夫及び赤尾栄三、監査役が上告人那賀島淑雅であった。右当時の株主及びその持株数は、鈴木勉が四四〇〇株、その姉である上告人那賀島陽子が二九〇〇株、その夫である上告人那賀島淑雅が七五〇〇株、同人が代表取締役である上告会社が四〇〇〇株、赤尾栄三が二〇〇株、ケミカル化工株式会社が一〇〇〇株であり、被上告人の株式の譲渡については取締役会の承認を要する旨の定款の定めがあった。
 被上告人は、平成三年三月当時約一億三〇〇〇万円の借入金があり、その利息と元本の支払に年間約二五〇〇万円を要するため、運転資金に不足を来す状況にあったところ、鈴木勉は、被上告人の増資を計画し、知人である池田岩夫に相談し、取りあえず出資金を自らが立て替えて増資し、発行した被上告人の新株を池田に譲渡して立替金を回収することで池田の了承を得た。
 被上告人は、平成三年三月二九日午前一〇時、被上告人本社の会議室において、鈴木勉、鈴木信夫及び赤尾が出席して取締役会を開催し、額面五〇〇円の新株を一万二〇〇〇株発行してこれを鈴木勉に割り当て、発行価額を一株一九〇〇円、払込期日を同年五月二三日とすること等を決議したが、その際、鈴木勉は、赤尾に対し、この増資の件を取引先に知られたくないのでしばらく他言しないように頼んだ。鈴木勉は、株主である上告会社及びケミカル化工株式会社の各事務所に電話したが、連絡がとれず、結局、被上告人は、払込期日の二週間前までに商法二八〇条ノ三ノ二に定める公告も株主への通知もしなかった。
 鈴木勉は、平成三年五月二〇日、被上告人に対し、申込証拠金二二八〇万円を添えて、新株一万二〇〇〇株を発行価額一株一九〇〇円で引き受けることを申し込み、払込取扱銀行である株式会社武蔵野銀行久喜支店は、同月二三日付けで二二八〇万円の株式払込金保管証明書を発行し、被上告人は、同月二四日付けで発行済株式の総数を三万二〇〇〇株、資本金を二一四〇万円とする増資の登記を経由した(以下「本件新株発行」という。)。
 なお、平成三年五月三〇日に、鈴木勉、鈴木信夫及び赤尾が出席して被上告人の取締役会が開催され、鈴木勉の所有する被上告人の株式のうち、二〇〇株を鈴木信夫に、一万株を池田に各譲渡することが承認され、被上告人は、同年六月三日付けで、鈴木勉に六二〇〇株の、鈴木信夫に二〇〇株の、池田に一万株の各株券を発行し、右各人はこれを受領した。
 原審は、右の事実関係の下において、次のとおり判示して、上告人らの被上告人に対する新株発行無効請求を認容した第一審判決を取り消し、上告人らの請求を棄却した。
 商法二八〇条ノ三ノ二に定める公告又は通知を欠いたまま新株が発行がされた場合であっても、右規定違反を理由にこれを無効とすることは、会社をめぐる法律関係の安定性確保の見地から相当でなく、新株発行は、株式会社の組織に関するものであるとはいえ、会社の業務執行に準じて取り扱われるものであるから、取締役会の決議に基づき、会社を代表する権限を有する取締役によって新株が既に発行された以上、右新株発行は有効であると解するのが相当であり、新株が著しく不公正な方法により発行された場合であっても、右新株発行の効力は左右されない。
 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 新株発行に関する事項の公示(商法二八〇条ノ三ノ二に定める公告又は通知)は、株主が新株発行差止請求権(同法二八〇条ノ一〇)を行使する機会を保障することを目的として会社に義務付けられたものであるから、新株発行に関する事項の公示を欠くことは、新株発行差止請求をしたとしても差止めの事由がないためにこれが許容されないと認められる場合でない限り、新株発行の無効原因となると解すべきである(最高裁平成五年(オ)第三一七号同九年一月二八日第三小法廷判決・民集五一巻一号七一頁参照)。
 これを本件についてみるに、前記事実関係に照らせば、
(一)
 鈴木勉は、本件新株発行について赤尾に他言しないように頼み、当時発行済株式の総数の過半数を所有していた上告人らに通知しないまま本件新株発行を行っているが、これは上告人らに秘匿して行ったものといわざるを得ないこと、
(二)
 本件新株発行により、上告人らの持株は過半数を割り込むことになり、他方、鈴木勉の持株は過半数を上回ることになって、被上告人に対する支配関係が逆転すること、
(三)
 本件新株発行が取締役会で決議されたのは、商法の一部を改正する法律(平成二年法律第六四号)の施行日である平成三年四月一日の直前の同年三月二九日であって、もし右施行日後に右決議がされていれば、株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨の定款の定めのある被上告人の株主である上告人らは新株引受権を有することになったはずであること(同法附則一四条、商法二八〇条ノ五ノ二)、
(四)
 新株の払込期日は右決議の約二箇月も先である同年五月二三日と定められており、新株発行により増資されても、それが直ちに株式会社の運転資金を調達したことにはならず、被上告人が本件新株発行を決議した当時、その公示をしないで本件新株発行を急がねばならないほど資金を緊急に調達する必要があったとはいい難いこと等の事情が存することが明らかである。右によれば、本件新株発行は「著シク不公正ナル方法」(同法二八〇条ノ一〇)によるものではないとは到底いえず、差止めの事由がないとは認められないから、前記の通知又は公告を欠く本件新株発行には、無効原因があるというべきである。
 以上のとおり、本件新株発行は有効であるとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点をいう論旨は理由があり、その余の点について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、前記説示に照らせば、上告人らの本件請求を認容した第一審判決は、正当として是認すべきものであって、被上告人の控訴を棄却すべきである。

 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 福田博 裁判官 大西勝也 裁判官 根岸重治 裁判官 河合伸一)