伝聞・法曹こぼれ話



地方検察庁取り調べ室での出来事

    某月某日・某地方検察庁取り調べ室での出来事。

    地方検察庁の取り調べ室に、ちょっと茶目っ気ではあるが、目鼻立ちのすっきりとした、年の頃22,3であろう女性を前にして、検察官に取り調べを指示された司法修習生の人見がいた。

    人見は恋人にでも話しかけるように、美人被疑者の瞳をみつめながら静かに話し始めた。

    「初めまして。」
    「私は司法修習生の人見といいます。」
    「検察官から、あなたの窃盗被疑事件の取り調べを担当しなさいと言われたのですが、司法修習生の私が取り調べを担当しても宜しいですか。もちろん、私が調べた後、検察官があなたを取り調べることとなります。」

    この言葉を聞いて、しっかりとした口調で答えが返ってきた。

    「そうですか。わかりました。結構です。」

    変わらずゆっくりとした口調で、人見は続けた。

    「そうですか。では、お聞きします。」
    「・・・」
    「あなたは勤務先のスーバーのレジからお金を盗んだんじゃないのですか。
    会社の調査によると、あなたがレジに入ったいたときに限って、レシートと現金が合わないようなんですが。」

    「いいえ。」
    「・・・」
    「そんなこと、しません。何かの間違いです。」
    「私ではありません。」

    人見の見つめる瞳に何かを感じたのか、言葉もくちごもりがちになりながら

    「私では・・・。」

    「そうですか。」

    「・・・」

    人見は、黙って、ただ、ひたすら美人被疑者の瞳をじっと見つめ、黙っていた。沈黙の時が流れていく。

    美人被疑者の目は伏し目がち、人見の目を見ることすらできず、だんだんと視点が定まらなくなっていくようである。

    約2時間は経過したであろううか、同室で人見と一緒に司法修習している修習生らが、ひそひそ話をし始めた。

    「おい・・・。あれ、見て見ろよ。」
    「人見、じっと、あの美人の被疑者の顔ばっかし、見とれとるのか?」
    「頭に、きたんちゃうか。あいつ、独身やからなぁ〜。」

    そんなヒソヒソ話が聞こえた訳でもないだろうが、美しい被疑者の瞳が、真っ赤になるや、瞳は、涙であふれてきた。

    思わず、一緒に目頭が熱くなった人見は、一呼吸した後

    「そうですか。やはり、あなたが盗ったんですか。」
    「でも、こうして、すべてを・・・」
    「真実を、話して、気が楽になったでしょ。あなたを起訴すべきであるとか、そんなことは考えていません。処分権限を持っている検察官も、考えていないと思います。」
    「ただ、あなたに、真実を、話して欲しかった。」
    「そして、いつも、太陽を見上げながら、生きていって、欲しかった。」
    「それだけ・・・、なんです。」

    「検察官に報告してきますから、待っていてください。」



    人見は、学生のころから、ひとつ、悪癖があった。

    人と話しするとき、じっと、相手の瞳の奥を見つめ続けるという・・・。

      それで、よく、誤解されたという。
    「この人、私のこと、好きなのかしら」って

    司法修習生であるにもかかわらず、否認事件の被疑者を自白させたということで検察教官からほめられた人見修習生は、現在、某地検の特別捜査部長ではなく、たまに担当する刑事事件の法廷で、検察官と強烈に対峙するケッタイな弁護士として活躍しているとのことである。

    (作者:瞳で語るケッタイな弁護士)